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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.02.10 Sun » 『とり残された左翼』

【前書き】
 以下は2010年4月5日に書いた記事である。誤解なきように。


 長かったトンネルをひとつ抜けた。7月に出る予定のテリー・ビッスン短篇集、その最後の訳稿がようやくあがったのだ。もちろん、本になるまでまだ諸々の作業が残っているが、とりあえず締め切りはクリアした。なにはともあれひと安心だ(追記1参照)。

 というわけで、この日のためにとってあったビッスンの最新刊を読んだ。The Left Left Behind (PM Press, 2009) である。

2010-4-5(The Left Left behind)

 聞いたことのない版元だが、2007年にできた新興の小出版社。政治色の強いカウンターカルチャー系の版元で、書籍や小冊子のほかにCD、DVD、Tシャツなどの制作・販売をおこなっているらしい。
 ビッスンも新左翼運動あがりなので、編集スタッフと意気投合したらしく、《歯に衣を着せない作家たち》という叢書の編集にあたることになった。政治的に物議をかもしそうなSF短篇に作家インタヴューを合わせた薄手の本を出していこうという企画。その1冊めが上記の本というわけだ。

 日本の四六版に近い版型で120ページあまりのソフトカヴァー。目次を簡略化して示す――

1 The Left Left Behind: “Let Their People Go!”
2 Specal Relativity
3 “Fried Green Tomatoes”*インタヴュー
4 Bibliography

 不勉強ゆえ全然知らなかったのだが、アメリカには The Left Behind シリーズという大ベストセラーが存在するらしい。キリスト教系の宗教ファンタシーで、ある日信仰に厚い人々が死を経ずして昇天し、残された人々が、キリストの再臨まで7年にわたってアンチ・キリストの圧政に服すという内容とのこと(追記2参照)。
 1はこれのパロディで、キリスト教原理主義の価値観を徹底的におちょくっているほか、イスラエルの対パレスチナ政策に諷刺の矛先を向けている。作者によると、おそらく後者が災いして、出版してくれるところがなかなか見つからなかったという問題作だ。
 抱腹絶倒のドタバタで、筒井康隆の諸作と似た感じだが、アメリカの事情に通じていないとギャグが理解できない憾みがある。当方にも理解しきれたかどうか自信がない。
 ちなみに題名は駄洒落。左翼と内容に直接の関係はない。こういうギャグは翻訳不能なのだよ。今回の翻訳作業でもさんざん悩まされた。

 2は戯曲。これも政治色の強い諷刺作品で、アインシュタイン、ローブスン、フーヴァーの3人がブッシュ政権下の現代アメリカによみがえる。やはりドタバタだが、主役3人に馴染みがないと笑えないかもしれない。当方もローブスンがわからなくて調べた。

 3の内容は、7月に出る本の解説で要点を紹介するつもり(追記3参照)。それでもひとつだけあげると、「好きな短篇小説作家は?」という質問に答えてR・A・ラファティの名前をあげ、“He's a singer; I'm a talker”と述べているのが興味深い。ほかに名前のあがっている作家は、トム・ジョーンズ、モリー・グロス、デイヴィッド・セダリス。これまた不勉強でグロスとセダリスという作家はまったく知らない。どなたかご教示してくださいませ。

 最後に《歯に衣を着せない作家》叢書で出ているほかの本をあげておく――

The Lucky Strike by Kim Stanley Robinson
The Underbelly by Gary Phillips
Mammoths of the Great Plains by Eleanor Arnason

 なるほど、といいたいところだが、フィリップスという作家ははじめて知った。どんな作風なのだろう。これまたご教示願います(追記4参照)。(2005年4月5日)

【追記1】
 拙編のビッスン傑作集『平ら山を越えて』(河出書房新社、2010)のこと。

【追記2】
 この大ベストセラーは一部が邦訳されているほか、映像化されたもののDVDが入手できると添野知生氏と堺三保氏に教えてもらった。感謝。

【追記3】
 T・B・カルフーンという人がインタヴュアーを務めているが、ビッスン本人の変名だとあとで知った。T・Bはテリー・ビッスンの略だろう。カルフーンという名前は、奴隷制支持で有名な19世紀の大物政治家を連想させるので、皮肉がこめられているのかもしれない。

【追記4】
 《歯に衣を着せぬ作家》シリーズは、この後、マイクル・ムアコック、アーシュラ・K・ル・グィン、コリー・ドクトロウ、ルーディ・ラッカー、ナロ・ホプキンスンの作品を刊行している。くわしくはリンク先をご覧ください。

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