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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.17 Mon » 『リイ・ブラケット傑作集』

 昨年末から、ぼつぼつとリイ・ブラケットの作品を読んでいる。いろんな短篇集やらアンソロジーをつまみ食いしているのだが、いつのまにか The Best of Leigh Brackett (1977) をまるまる読んでしまった。

 これは夫君エドモンド・ハミルトンが編んだブラケット傑作集。初版はSFブック・クラブのハードカヴァーだが、当方が持っているのは同年に出たデル・レイ版ペーパーバックの二刷(1986)。表紙絵はボリス・バレーホである。

2012-2-3(Brackett)

 「ヘンリー・カットナーの思い出」に捧げられており、ハミルトンの序文とブラケットのあとがきのほか、ブラケット版火星の地図とその説明が付録になっている。
 序文でハミルトンが、自分たちの創作作法のちがいを明かしている。それによると、ハミルトンは綿密にプロットを立て、シノプシスを作ってから作品を書きはじめるのに対し、ブラケットはとにかく1ページ目を書きはじめ、あとは成り行きにまかせるのだという。そんな書き方があるもんか、と最初は呆れたハミルトンも、「彼女の場合はそれでうまくいくようだ」と認めている。

 収録作はつぎのとおり。発表年と推定枚数も記しておく――

1 The Jewel of Bas  '44 (140)
2 消えた金星人  '45 (85)
3 アステラーの死のベール  '44 (80)
4 消滅した月  '48 (140)
5 金星の魔女  '49 (190)
6 The Woman from Altair  '51 (85)
7 シャンダコール最期の日々  '52 (90)
8 Shannach-The Last  '52 (150)
9 The Tweener  '55 (50)
10 The Queer Ones  '57 (110)

 最後の2篇をのぞけば、いずれもアチラでプラネタリー・ロマンスと呼ばれるタイプの異星冒険活劇である。さすがにめぼしいところは邦訳されており、1と6は一枚落ちる。

 発表年代順に読んでいくと、ブラケットの文体の変化がはっきりわかる。最初は「パープル」と評されそうな装飾過多で詠嘆調だった文体が、どんどん簡素でハードボイルドなものになっていくのだ。その分すごみがましている。従って、私見では8と10が集中ベストを争うと思う。

 8は水星を舞台にしたプラネタリー・ロマンス。砂漠と運河の火星や、熱帯の海とジャングルの金星とはちがい、灼熱の岩場が広がる世界だけあって、ロマンティックな要素は乏しく、支配と被支配をめぐる苛烈きわまるストーリーが展開される。エドガー・ライス・バローズの系譜を引くのはもちろんだが、むしろロバート・E・ハワードの《コナン》シリーズにも似た味わいがある。

 10は一転して、地球人にまぎれこんでいる異星人の話。50年代SF映画風の展開で、非常にサスペンスフル。ちょっと古いが、これは邦訳する値打ちがある。いまならSFノワールと惹句をつけられそうだ。

 7はむかし邦訳で読んだとき、ちっとも面白いと思わなかったのだが、今回そのよさがわかった。なるほど、ブラケットもケルト的な滅びの美学の人だったのだな。本は鏡みたいなものなので、この30年のうちに、それに映る素養が当方のなかにできたということだろう。

 それにしても、読んでいる途中で裏表紙がちぎれてしまったのにはまいった。紙が酸化しているせいだ。やっぱり本は読むものではなく、飾っておくものである。(2012年2月3日)

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