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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.05.15 Wed » 小松左京と〈野性時代〉のこと

 小松左京の短篇というと、60年代の作品の人気が高いのだが、当方は76年くらいから80年くらいまでがピークだったのではないかと思っている。というのも、〈野性時代〉に発表された一連の作品が、信じられないくらい傑作ぞろいだからだ。以下そのリストを掲げる(題名、掲載号、推定枚数順)――

1 岬にて  1975,5 (100)
2 ゴルディアスの結び目  1976,1 (120)
3 あなろぐ・らう゛  1976,8 (100)
4 すぺるむ・さぴえんすの冒険  1977,2 (100)
5 歩み去る  1978,5 (40)
6 劇場  1979,5 (70)
7 雨と、風と、夕映えの彼方へ  1980,1 (80)
8 氷の下の暗い顔  1980,6-7 (180)

 上記1~4は初出時に《超常小説》という角書きがついていて、短篇集『ゴルディアスの結び目』(角川書店、1977)に1,2、4,3の順番で収録された。
 5~8は短篇集『氷の下の暗い顔』(同上、1980)に発表順で収録された。

 いずれも「宇宙と知性と人類」をテーマにしたハード哲学SFであり、まちがいなく世界最高水準。こんなものがよくSF専門誌ではなく一般の文芸誌に載ったものだと思うが、当時の〈野性時代〉には日本最先端のSFが定期的に載っていた。いろいろな意味で、日本SFの黄金時代だったのだなあ。

 『ゴルディアスの結び目』にくらべると『氷の下の暗い顔』はあまり話題にならないが、7と8は小松の短篇ベスト10に入れてもいいと思う傑作。
 7はブラックホール(?)にとりこまれた人間の意識の流れを描きながら、「宇宙における想像力の意味」を思索する哲学SFで、同時期に書かれた秀作「眠りと旅と夢」(1978)あたりと似た味わい。
 いっぽう8は「神への長い道」(1967)や「結晶星団」(1972)の延長線上にある宇宙探検SF。異星で発見された巨大な人面の謎を解明する過程で、「宇宙における知性」の意味が追及される。当方はこの系統を小松SFの真髄だと信じていて、クラーク、レム、小松をSF三大巨星として崇めているのである。

 以下、余談。
 上記の〈野性時代〉というのは、角川書店から出ていた総合文芸誌。いま同じ版元から出ている同名の雑誌とはちがい、サイズはB5で、恐ろしく分厚く、立って読むにはつらいほどだった。とはいえ、電車のなかでこれを立ち読みしている人をいちどだけ見かけたことがある。あれには本当に感心したものだ。
 角川春樹の肝いりで創刊されただけあって、当時の角川書店、あるいは出版界の常識をぶちこわす刺激的な雑誌だった。SFにも好意的で、最初のうちはSF特集を組んでいたが、そのうちそういう特別枠ではなく、SF作家の作品が常時誌面をにぎわすようになった。例をあげれば、山田正紀『チョウたちの時間』、眉村卓『夕焼けの回転木馬』、半村良《嘘部》三部作……。日本SF史における〈野性時代〉の役割は非常に大きいので、きちんと評価されるべきだと思う。

 当時の当方は〈野性時代〉と〈SFマガジン〉と〈奇想天外〉を定期購読していた。したがって、日本SFの最先端に触れていたことになる。もっとも、そこから進歩がないのが困りものだが。

 〈野性時代〉は乱丁が多い雑誌で、しょっちゅう書店へ取り換えてもらいにいったものだ。旅先で買った号が乱丁だったときは、現物を角川書店に送って取り換えてもらった。そのとき送料として切手を同封したら、そのまま返してくれたのをいま思いだした。
 そういう思い出のある雑誌だが、場所ふさぎなので10年ほど前に大量処分してしまった。いま思うと、じつに勿体ないことをした。後悔先に立たずである(2010年3月18日)。


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