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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.16 Sun » 「合いの子」のこと

【承前】
 昨日の記事でわざと書きもらしたことがある。説明すると長くなるからだが、なんとなく気分がすっきりしないので、別項を立てることにした。

 昨日リイ・ブラケット傑作集 Sea-Kings of Mars and Otherworldly Stories には、短くて90枚、長くて335枚のプラネタリー・ロマンスが収録されていると書いた。
 じつは1篇だけ例外がある。“The Tweener” という50枚くらいの短篇で、初出は〈F&SF〉1955年2月号。勘のいい方なら、これだけでおわかりのとおり、プラネタリー・ロマンスではない。文明批評型のいわゆる50年代SFである。

 表題の tweener というのは、火星の生物の名前。見た目が「something between a rabbit and a ground-hog, or maybe between a monkey and a squirrel」に似ていることからきている。要するに、兎と猿の合いの子のような小動物。毛がふさふさで、たいへんかわいらしい。性質も温和で頭もいい。ペットには最適である。

 物語は、両親と子供ふたりの平凡な家庭へ一匹の「合いの子」が持ちこまれるところからはじまる。細君の弟が火星土産に連れてきたのだ。子供たちは、早速「合いの子」に夢中になり、ジョン・カーターと名づけてかわいがるが、父親はその日から奇妙な頭痛に悩まされるようになる。
 やがて夫は、ある観念にとり憑かれるようになる。「合いの子」は火星で発見された唯一の動物だ。そうすると、ほかの生物をすべて滅ぼしたのかもしれない。ひょっとして、地球でも同じことをするのではないだろうか。この頭痛は、「合いの子」の仕業ではないのか……。

 どうせ翻訳は出ないだろうから、結末をばらすが、恐怖に駆られた父親は「合いの子」を殺してしまう。だが、すべては妄想だったことがわかる。未知のものは、悪いものに見えるという心理が原因だった。最後に父親は子供たちにいう――「そんなに悲しまないで、子犬を買ってあげるから」

 当時のアメリカに蔓延していたゼノフォビアを諷刺した作品。プラネタリー・ロマンスの女王の意外な面を見せる意味で収録されたのだろう。そういえば、夫君エドモンド・ハミルトンもブラケット傑作集を編んだとき、この作品を選んでいた。
 しかし、こういうのはブラケットのプラネタリー・ロマンスがポピュラーだから意味があるのであって、わが国では通用しないだろう。(2009年8月23日)


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