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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.04.19 Thu » J・G・バラード3周忌に寄せて

【前書き】
 以下はJ・G・バラードの訃報に接した際にしたためた日記である。3周忌に寄せて、未訳短篇集の紹介ともども公開する。合わせてお読みください。



 訃報。英国の作家J・G・バラード。2009年4月19日、長い闘病の末に死去。享年78。
 前立腺癌が脊髄に転移して末期症状であり、余命いくばくもないことは1年ほど前に公になっていた。だから、この日が近いうちに来ることはわかっていたが、それでも衝撃は大きい。若いころ夢中になった作家の訃報は別格なのだ。自分の人生の一部がもぎとられたように思えるから。ともあれ、安らかに眠れ。

 いまさら客観的なことを書いても仕方がないので、思いっきり個人的なことを書く。 

 バラードくらいの大物になると、読者としても翻訳家としても当方ごときの出る幕はなく、あまり発言をしてこなかったが、それでも評論を1篇、翻訳を2篇発表している。
 評論は「始原としての熱帯」という題名で『沈んだ世界』を論じたもの。〈SFマガジン〉1998年11月号に発表した。
 翻訳は『20世紀SF③ 1960年代 砂の檻』(河出文庫、2001)所収の表題作と、〈SFマガジン〉2007年5月号(異色作家特集Ⅰ)所収の「認識」の2篇である。

 死ぬまでにバラードの小説を1篇くらい訳したくて、編者特権を利用して訳したのが「砂の檻」。バラードが強迫観念的に書きつづけた〈死亡した宇宙飛行士〉ものの嚆矢をなす作品であり、バラードの美質がよく表れた作品だと思う。もっとも、上記アンソロジーを読んだ父親に「安部公房の亜流みたいで、あんまり感心しなかった」といわれたのを憶えている。当方の父親は読書人だがSFファンではない。ちなみに、この巻ではクラークの「メイルシュトロームⅡ」を誉めていた。

 「認識」も同じように特集企画者の特権を利用して訳した。これはエリスン編の巨大アンソロジー『危険なヴィジョン』に収録の作品だが、不幸な事情で40年も未訳だったといういわくつきの作品(じつは大和田始氏の訳稿が完成していたことをあとで知った)。
 だが、いわくはそれだけではない。じつはバラードはこの作品ではなく、「下り坂自動車レースとみなしたジョン・F・ケネディの暗殺」を『危険なヴィジョン』に載せようとしたらしい。のちになってバラードが、「どこが危険なヴィジョンだ」と同書をくさしたところ、エリスンが「そんな話は初耳だ。恐れをなしたエージェントが、その作品を送ってこなかったんだよ」と弁明したのである。果たして真相はいかに。

 ありゃ、バラードの未訳短篇集を紹介しようと思ったのだが、前書きだけで長くなってしまった。つぎの岩につづく。(2009年4月20日)



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