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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.30 Thu » 『剛勇の谺 第三集』その2

 昨日のつづきで、Echoes of Valor Ⅲ がいかにマニアックかという話。

Ⅲ マンリー・ウェイド・ウェルマン
 Hok Goes to Atlantis

 第三部は前巻に引きつづき、ウェルマンの《ホク》シリーズから1篇。ホクが見知らぬ国へ遠征したら、そこは高度な文明社会。だが、あまりにも退廃していて、腹を立てたホクが神殿かなにかを壊したら、大陸が沈んでしまった。つまり、これがアトランティス沈没の真相であったという話。
 シリーズ第二作にあたる作品だが、これが再録された理由は明らかで、永らく幻だったから。ほかの作品が67年から70年にかけて〈ファンタスティク〉に再録されたのに対し、これだけその機会に恵まれなかったのだ。しかし、出来映えのほうはイマイチで、珍しさだけを基準に作品は選んではいかんなあ、と思わされる。

Ⅳ ジャック・ウィリアムスン
 Wolves of Darkness

 第四部は意外な人選で、ウィリアムスンのノヴェラが収録されているが、これは〈剣と魔法〉ではない。ワグナーの解説によると、人狼をテーマにした現代ものの怪奇スリラーで、初出は1932年。長篇『エデンの黒い牙』(1940)の原型的作品だそうだ。
 長さが215枚もあるし、お目当てだった〈剣と魔法〉でもないので、この作品は読まなかった。ワグナーの解説が面白いので、原文のまま引いておく――

 “Wolves of Darkness” is an unbashed horror thriller, written in the most florid language of the pulps. Can you say “ululation”? How many times?

V ニッツィン・ダイアリス
 Nictzin Dyalhis: Mysterious Master of Fantasy サム・モスコウィッツ(エッセイ)
 The Red Witch
 サファイアの女神
 The Sea-Witch

 第五部には伝説のパルプ作家ニッツィン・ダイアリスの中篇3篇と、古典SF研究の泰斗サム・モスコウィッツによる評伝が収録されている。

 モスコウィッツの評伝は、これだけで項目を立てる価値があるので次回に紹介するとして、ダイアリスの作品について簡単に触れておく。

 The Red Witch は、輪廻転生をテーマにした綺譚。原始人の時代と現代を舞台に、運命的な恋をした男女と、女に横恋慕した族長との因縁が語られる。男女は現代に生まれかわっているが、族長だけは呪いのせいで半死の状態を何万年もつづけているという点が独創的だが、文章がいかにもパルプで、読むのがつらい。

 「サファイアの女神」は古典的ヒロイック・ファンタシー。当方はこの作品が大好きで、前記『不死鳥の剣』を編んだとき、安野玲氏に新訳してもらったうえで収録した。
 二種類の既訳が、三種類の媒体に掲載されたことのある作品だが、ほとんどの人が本邦初訳と勘違いしていたので驚いた。古い邦訳、あるいはマイナーな媒体への掲載は、存在していないのと同じということか。

 The Sea-Witch は、掲載誌〈ウィアード・テールズ〉が人気投票を行ったとき上位にはいった作品で、なにを見ても名作あつかいされている。が、これも大時代な輪廻転生もので、あまり高い評価はできない。兄弟を惨殺され、自分も陵辱された北欧の尼僧が、現代に生まれかわって復讐を果たす話である。

 すでにお気づきのように、この巻は〈剣と魔法〉でない作品が多く収録されている。たしかに珍しい作品が並んでおり、パルプ研究家としての編者の力量には敬服するが、ヒロイック・ファンタシー・アンソロジーという当初の趣旨からはズレているのも事実。それが理由かどうかは知らないが、このシリーズは第三集で終わった。初心忘れるべからずである。(2009年3月9日)

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