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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.29 Wed » 『剛勇の谺 第三集』その1

 このさいカール・エドワード・ワグナー編のヒロイック・ファンタシー・アンソロジー第三弾 Echoes of Valor Ⅲ(Tor, 1991) も紹介しておこう。ワグナーのマニアぶりに拍車がかかって、資料としては貴重きわまりないのだが、当初の路線からは逸脱した感もあり、痛し痒しの本だ。

2009-3-9(Echoes 3)

 長くなるのは目に見えているので、最初に目次をかかげるのはやめて、セクションごとに解説していこう。

Ⅰ ロバート・E・ハワード
 The Shadow of the Vulture

 第一部はロバート・E・ハワードの中篇を収録。ただし、これは〈剣と魔法〉ではなく、オスマン・トルコのウィーン包囲を題材にした歴史冒険小説である。なぜそんなものがはいっているかというと、本篇にレッド・ソーニャ(Red Sonya)が出てくるから。

 といっても、コミックス版コナンに登場し、ブリジット・ニールセン主演の映画も作られた女剣士を思い浮かべてはならない。鎖かたびらのビキニを身にまとったあの女傑は一字ちがいの Red Sonja で、マーヴェル・コミックスが創造した人物。ハワードの作品には登場しないのである。

 とはいえ、まったくのゼロから生まれたわけではなく、本篇に登場するロシア人女剣士を霊感源(のひとり)として創られたと思しい。ワグナーは実例を示したうえで、両者の混同を戒めているわけだ。

 しかし、女剣士の活躍を期待すると当てがはずれる。本篇の主人公は、ゴトフリート・フォン・カルマバッハというドイツ人の酔いどれ戦士。赤毛のソーニャは、強烈な印象を残すとはいえ、あくまでも脇役にとどまるのだ。ちょうど「赤い釘」におけるコナンとヴァレリアの関係と同じである。しかも、話は暗鬱な歴史ものなので、〈剣と魔法〉を期待した読者は面食らったと思われる。

 余談だが、ハワードは中世フランスを舞台にした女剣士もの《ダーク・アグネス》シリーズも書いている。強い女が好きだったみたいだ。

Ⅱ ヘンリー・カットナー
 呪われた城市
 暗黒の砦
 
 第二部には《サルドポリスのレイノル王子》シリーズが収録されている。
 作者のカットナーは、ハワードの死後〈剣と魔法〉に手を染め、ふたつのシリーズを遺したが、そのうちの片方がこのシリーズ。〈ウィアード・テールズ〉の競合誌として誕生した〈ストレンジ・ストーリーズ〉に掲載されたが、同誌が短命に終わったため、このシリーズも2篇で終わった。
 第一作「呪われた城市」は〈ミステリマガジン〉1971年1月号に訳載されているが、このタイトルが問題。というのも、目次には「呪いの城市」と記され、本文扉には「呪われた城市」と記されている悩ましいケースだからだ。同誌の総目録には「呪われた城市」で記載されているので、それにしたがったが、当方は「呪いの城市」で記憶していた。
 シリーズ第二作は長いこと未訳だったが、当方が〈剣と魔法〉のアンソロジー『不死鳥の剣』(河出文庫、203)を編んだとき、これを収録することに決め、安野玲氏に訳してもらった。
 カットナーの愛妻C・L・ムーアの傑作「ヘルズガルド城」と並べたのは、当方の誇りとするところだ。(2009年3月8日)

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