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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.03.19 Tue » 『着陸降下進路』

【前書き】
 本日はアーサー・C・クラークの命日である。故人を偲んで、2009年1月31日に書いた記事を大幅に加筆修正したうえで公開する。


 アーサー・C・クラーク唯一の非SF長篇として名高い Glide Path (1963) を読んだ。初版はハーコート、ブレイス&ワールドのハードカヴァーだが、当方が持っているのは2年後にデルから出たペーパーバックだ。

2009-1-31 (Glide Path)

 第二次大戦中、クラークは技術士官として航空機のレーダー誘導着陸技術の実用化に従事していた。その後GCA(Ground Cotrolled Approach)の略称で世界じゅうに広まり、いまでも安全運航の基礎をなしている技術である。黎明期ならではの苦労の連続だったらしいが、その時代の体験を基にして書かれたのが、この本というわけだ。ただし、本書のなかではGCD(Ground Controlled Descent)という名称に変更されている。

 物語は二十歳そこそこの若き空軍士官、アラン・ビショップが北海沿岸のレーダー基地をあとにするところからはじまる。ビショップは、民間人時代にラジオの修理を職業としており、その知識を買われてレーダー技術仕官に抜擢されたのだが、いま新たな任務があたえられたのだ。その任務とは、レーダーによる航空機の着陸誘導技術の実用化である。アメリカで開発されたばかりの技術だが、ある英国武官がその重要性を見ぬき、アメリカ軍の鼻先から装置と技術者をまとめてイギリスにかっさらってきたのだ。ビショップは、厳重な秘密保持体制のもと、彼らと協力して前例のない仕事にとり組むのだった……。

 戦時中の話だが、舞台はコーンウォールの片田舎、それも訓練部隊の基地とあって、いたってのんびりしている。前半でいちばんサスペンスの盛りあがるのが、クラークの分身である主人公ビショップが、娼館で部下と鉢合わせしそうになる場面なのだから、あとは推して知るべしだ。
 後半にはいると、人の生死にかかわる事態が続出するが、戦争ものに予想される派手な展開とは無縁である(もっとも、主人公がぶっつけ本番で誘導するはめになった謎の実験機が、世界最初のジェット機、ミーティアの一番機だったという飛行機マニアなら泣いて喜ぶ場面もあるが)。

 というわけで、いたって地味な小説ではあるものの、かなり面白い。簡単にいえば、ひとりの青年の成長物語だが、レーダー技術にかかわるエピソードが、それを特異なものにしているのだ。
 さらに主人公をとり巻く人々も個性的で、クラークは淡いユーモアのにじむ筆致で彼らの行状を活写している。それぞれモデルがいるらしいが、とにかくひと癖もふた癖もある人物ぞろいなのだ。

 ちなみに、クラークは戦時中のこの体験をノンフィクションの形でも発表している。「貴機は着陸降下進路に乗っている――と思う」がそれで、拙訳が〈ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク〉第1巻『太陽系最後の日』(ハヤカワ文庫SF、2009)にはいっている。小説の主要エピソードは、こちらでも簡潔に語られているので、未読の人には強くお勧めしておく。(2009年1月31日+2013年3月18日)

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