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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.01.06 Sun » 『恐怖小説百選』

【承前】
 コーソーン著のガイドブックにはミステリとホラーを対象にした姉妹篇がある(当方が知らないだけで、ほかにもあるのかもしれない)。
 ミステリ篇は邦訳のあるH・R・Fキーティング著『海外ミステリ100選――ポオからP・D・ジェイムズまで』(早川書房)。後者はスティーヴン・ジョーンズ&キム・ニューマン編の Horror: 100 Best Books (Xanadu, 1988) だ。もっとも、当方が持っているのは、1992年にニュー・イングリッシュ・ライブラリから出たトレード・ペーパー版だが。

2008-12-30(Horror 100)

 本のガイドブックというものは、ひとりで全部書くか、何人かのライターが手分けして書くのがふつうだろう。しかし、本書で編者コンビは画期的な方法をとった。
 つまり、著名な作家や評論家に鍾愛の1篇に関するミニ・エッセイを書いてもらい、それを100篇集めたのだ。だれがなにを選んだのかという興味も加わって、二重に面白い本になっている。
  
 これは一種のコロンブスの卵で、このアイデアを思いついた時点で本書の成功は約束されたようなものだ。じっさい、2005年には同じ編者コンビで続編 Horror: Another 100 Best Books が出ている。

 事務処理を考えると気が遠くなるが、それにもめげず本書を刊行した編者コンビには、最大の敬意を表したい。さすがはスティーヴン・ジョーンズ!

 内容だが、各タイトルが発表年代順に並べられ、編者による簡単な著者紹介+執筆者による2ページほどのエッセイという形式になっている。古くはクリストファー・マーロウ「フォースタス博士」から新しくはロバート・R・マキャモン『スワン・ソング』あたりまで。いわゆるホラーにとどまらず、エリザベス朝演劇やSFまでとりこんだ「幻想文学」ガイドといった性格が強い。
 とりわけ無茶だと思ったタイトルをあげると――

フィリップ・K・ディック『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』(推薦者タッド・ウィリアムズ)
J・G・バラード『結晶世界』(推薦者クレイグ・ショウ・ガードナー)
ジョン・ブラナー The Sheep Look Up (推薦者ジョン・スキップ)
ティム・パワーズ『アヌビスの門』(推薦者ジョン・クルート)

 念を押しておくが、これはホラーのガイドブックである。怖いものは人それぞれということか。
 
 ともあれ、英米ホラー&ファンタシー界の重鎮がずらりと名前を連ねて壮観。各人が力のこもった文章を書いていて、非常に読み応えがある。
 さらにすばらしいのは、古い文献を渉猟して故人の原稿も載せていることだ。たとえば、ポオがホーソーンについて、ラヴクラフトがR・W・チェンバーズについて論じているといった具合。このアイデアは秀逸の一語につきる。
 しつこく書くが、スティーヴン・ジョーンズはほんとうに偉い人だ。(2008年12月30日)

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