fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2024.01 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 » 2024.03

2012.12.21 Fri » 『不透明人間』

【承前】
 ガードナー・ドゾワの短編集は5冊出ている(追記1参照)。ただし、そのうちの2冊は、ほかの作家との共作と、ドゾワゆかりの作家たちのエッセイを集めた本なので、ドゾワの短編集という気はしない(追記2参照)。
 したがって、実質的に3冊だが、相互に作品の重複が目立つ。どうもその時点での自信作を集めて本にしているらしい。なんだかベスト・アルバムばかり作っているミュージシャンみたいだ。
 逆にいうと、重複した作品は、折り紙つきの秀作か、作者にとって愛着のある作品だろうから、ここから簡単に傑作集が作れるのである。

 1冊めはペーパーバック・オリジナルで刊行された The Visible Man (Berkley, 1977) で、12篇収録。ドゾワの強力なプロモーターだったロバート・シルヴァーバーグの序文つき。

2008-11-3(The Visible Man)

 収録作はつぎのとおり――

The Visible Man
Flash Point
Horse of Air
The Last Day of July
Machines of Loving Game
A Dream at Noonday
A Kingdom by the Sea
The Man Who Waved Hello
The Storm
Where No Sun Shines
特別な朝
海の鎖

 ちなみにデビュー作は未収録。ほかにも既発表だが収録されなかった作品があるのかもしれないが、調べていない。
 初出を見ると、デーモン・ナイト編の《オービット》やロバート・シルヴァーバーグ編の《ニュー・ディメンションズ》など、1970年代前半のオリジナル・アンソロジーに発表された作品が多い。
 この事実からうかがえるように、いわゆるアメリカン・ニュー・ウェーヴ調の作品がならぶ。よくいえば繊細、悪くいえば軟弱な作品群である。簡単にいってしまえば、負け犬の心理がこと細かに書いてあるSF。

 邦訳のある2篇は傑作だが、同じ水準をほかの作品に期待しないほうがいい。
 未訳のなかでいちばんいいのは、たぶん“A Kingdom by the Sea”だろう。表題はポオの詩から採ったのだと思うが、思いきり文学的な寓話というか幻想小説である。

 主人公は高校を卒業したあと、軍隊にはいり、退役後は定職にもつかず各地を放浪したメイスンという男(この経歴は作者と同じ)。8年ぶりに故郷へ帰ってきて、牛を屠殺する仕事に就く。来る日も来る日もハンマーをふるって、牛をたたき殺す暮らし。やがて6年がたち、もはや人生に見切りをつけた感がある。そんな彼に愛想をつかして、恋人も出ていってしまう。
 それからしばらくして、彼の心のなかに知らない女の声が聞こえるようになる。メイスンは女にリリスと名前をつけ、愛情さえ感じるようになる。リリスは彼になにかを訴えようとしているらしく、メイスンがハンマーを握ると、その声はひときわ大きくなる。やがてメイスンは「その日」が来たことを知る。今日こそリリスが姿をあらわす日だ。いつものように仕事場に立つと、リリスがすぐそばにいることがわかる。頭がガンガン鳴りはじめる。目をあければリリスが見えるはずだ。そしてメイスンが目をあけると……。

 調子に乗って粗筋を書いたが、ずいぶん前に読んだきり。さっきパラパラ見返しただけなので、あまり信用しないでほしい。
 ともあれ、どんな作品か、おおよそ理解していただけると思う。

 これにつぐのが、“A Dream at Nooday”だが、こちらは未来の戦場に横たわって死にかけている兵士の心中を「意識の流れ」の手法で描いたもの。読むとぐったり疲れる作品である。

 じつは、邦訳された2篇と、いま紹介した2篇は、つぎの短編集にも収録されているのだ。というわけで、つぎの岩につづく。(2008年11月3日)

【追記1】
 この後 When the Great Days Come (Prime, 2011) という短篇集が出た。あいかわらず重複作品が多いベスト・アルバム方式であった。

【追記2】
 Slow Dancing Through Time (Ursus Imprints & MarK V. Zeising, 1990) とStrange Days (NESFA Press, 2004)のこと。

スポンサーサイト