fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2024.01 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 » 2024.03

2012.07.22 Sun » 『アーサー・C・クラーク中短篇集成』

 この前クラークのノンフィクション集成を紹介したので、小説集成のほうも紹介しておこう。The Collected Stories of Arthur C. Clarke (Orion/Gollancz, 2001)である。ただし、当方が持っているのは、同年にトーから出たアメリカ版ハードカヴァーだが。

2008-7-10(Complete)

 これは1000ページ近い大冊で、クラークが1937年から1999年にかけて発表した中短篇と、小説とはいえない小品や記事が104篇おさめられている。細かい活字がぎっしり組まれていて、1ページあたり、400字詰め原稿用紙で4枚近くの枚数を収録しているといえば、そのヴォリュームは想像がつくだろう(それでも収録できなかった作品が5篇あるというから驚きだ。そのうちの1篇は『銀河帝国の崩壊』の雑誌掲載ヴァージョンだから、当然といえば当然だが)。
 ほぼ全篇にクラークのコメントが付いているのがうれしい。ただし、書き下ろしではなく、編集者がいろいろなところから探してきたもの。立派な仕事である。

 当方の知るかぎり、未訳作品は7篇。そのうち4篇はデビュー前にファンジンに発表した習作短篇(3篇)とエッセイ。1篇は半ページにも満たない小品(コント)。1篇は長篇『神の鉄槌』の原型短篇である。

 残る1篇は、1951年に〈エアレス〉という女性雑誌に4回連載された中篇。チャールズ・ウィリスの筆名で発表された。本人は「なぜ筆名を使ったのか憶えていないが、マッチョなイメージを壊したくなかったのかもしれない」と述べている。

 じっさい、その作品 “Holiday on the Moon” は、まさに女性誌向けの科学啓蒙小説。ときは21世紀初頭、月の天文台に勤める科学者のもとへ、その妻と娘と息子が休暇を利用して訪ねるようすを描いている。ストーリーというほどのものはなく、主に18歳の長女の視点で旅行の模様がスケッチされる。

 もちろんクラークのことだから、その描写は迫真的。読んでいると、どうしてこういう宇宙旅行が実現していないのだろうと不思議になる。
 貴重な未訳作品なので、いつか紹介したいものだ(追記参照)。
 
 そういえば、クラークには未来の海中レジャーを予言した “Undersea Holiday” (1954) というノンフィクションがある。合わせて訳出したら面白いのではないか。(2008年7月10日)

【追記】
 この作品は、「月面の休暇」(小野田和子訳)として《ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク》第2巻『90億の神の御名』(ハヤカワ文庫、2009)に収録した。

スポンサーサイト