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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.01.19 Sat » 『ほかの惑星への気楽な旅』

【前書き】
 なにごともなければ、そろそろ訳書が書店にならぶ。テッド・ムーニイの『ほかの惑星への気楽な旅』(河出書房新社)という長篇である。叢書《ストレンジ・フィクション》の1冊。その名にたがわず、おそろしく変わった小説だ。くわしくは版元のホームページを見てもらいたい(リンク先では発売日が22日になっているが、これは全国の書店に配本が完了する日付。早いところでは、今日から発売されるはずである)。

 この秀作は広く読まれてほしいので、プロモーションの意味で以下の記事を公開する。


 テッド・ムーニイの Easy Travel to Other Planets (Farrar, Straus & Giroux, 1981) を読んだ。ただし、当方が持っているのは、83年にバランタインから出たペーパーバック版だが。

2008-4-11(Easy Travel)

 アメリカの新人作家(当時の話だが)の第一作。じつは20年ぶりの再読である。
 題名から想像されるような宇宙旅行の話ではまったくない。われわれの世界とはちょっとだけちがった世界を舞台にした現代文学である。ひとことでいうと、変な小説。とにかく書き方が変わっているのだ。ポップでわかりやすい実験小説とでもいおうか。

 女性海洋学者とイルカのラヴストーリーと紹介されることが多くて、それはまちがいではないが、その要素は全体の五分の一くらい。あとは女性海洋学者をとり巻く人間関係が淡々と、しかしそうとうに癖のある文章で描かれる。その人間模様が、古いモラルの持ち主から見れば不道徳きわまりないので、物議をかもした。冒頭にかなりショッキングなセックス・シーンがあるのも賛否両論を呼んだ理由か。
 そうかと思えば、イルカに伝わる神話が格調高く語られたりして、とにかく変わっている。

 この小説は、アメリカ文学に関心のある向きのあいだでは有名で、邦訳が出てないのが不思議なくらい。当方はサイバーパンク騒動のころ、ウィリアム・ギブスンが誉めていて、ブルース・スターリングがスリップストリーム作品リストに挙げていたので関心を持った。もちろん、イルカが出てくるからである。
 何年かあとペーパーバック版を古本で手に入れて読んでみたが、当時は英語の読解力が足りなくて、半分もわからなかった。ただ変な小説という印象は強烈で、いつか再読しようとずっと思っていた。それをこんど果たしたわけだ。

 不思議な浮遊感と重苦しさが同居していて、かなり読み応えがあった。さすがにセミ・クラシックになっているだけのことはある。
 ついでに邦訳が出てない理由もなんとなく察しがついた。ハイパーリアルな設定、文法無視で俗語だらけの難解な文章、わざと読者をとまどわせる構成が、ひと筋縄ではいかないからだ。
 
 まあ、こういう変わった小説もいまなら受け入られるだろう。変な小説を読みたい人にお勧めである。(2008年4月11日)

【追記】
 翻訳の底本に使ったイギリス版(Jonathan Cape, 1982) の表紙がきれいなので紹介しておく。

2008-4-11 (Cape)

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