2013.03.22 Fri » 『夜の暗闇の手先どもからの物語』
【承前】
なんだか変なタイトルだが、Tales from Nights Black Agents (Ballantine, 1961) を直訳すると上のようになる。SFではなく、ホラー・シリーズの1冊として出た本だ。

ライバー最初の著書は、1947年にアーカム・ハウスから出た作品集 Night's Black Agents だが、本書はそこから《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズに属すショート・ノヴェル「魔道士の仕掛け」を抜いてペーパーバック化したもの。ちなみに、親本に収録の「魔道士の仕掛け」は、『霧の中の二剣士』(創元推理文庫)収録の改稿版とはすこしちがうので、厳密にいえば未訳である。
じつをいうと、この本の題名がよくわからない。表紙には「Nights Black Agents」、背には「Night's Black Agents」、中扉には「Tales from Nights Black Agents」と書いてあるのだ。いったいどれが正しいのか。
あちらの書誌を見ると、アーカム・ハウス版と区別するために、中扉に記された題名を採るのが慣例のようだが、そうすると重大なミスが見つかる。というのも、題名の由来はシェイクスピアの『マクベス』に出てくる「night's black agents」なので、所有格を示すアポストロフィが落ちていることになるのだ。
重要なミスはこれだけではない。表紙、背、中扉すべてで著者名がライバー(Leiber)ではなくリーバー(Lieber)と誤植されているのだ。ライバーは悲しかっただろうなあ。

さて、肝心の内容だが、目次が面白いので、書き写す――
現代の恐怖(MODERN HORRORS)
煙のお化け
The Automatic Pistol
The Inheritance *The Phantom Slayer 改題
The Hill and the Hole
The Dreams of Albert Moreland *書き下ろし
魔犬
Diary in the Snow *書き下ろし
過渡期(TRANSITION)
若くならない男
古代冒険譚(ANCIENT ADVENTURES)
沈める国 《ファファード&グレイ・マウザー》
アーカム・ハウス版では巻末に「魔道士の仕掛け」が置かれていたわけだ(ここでも「ADVENTURES」と複数形のままになっている。ほんとうに杜撰だなあ)。
ご覧のとおり、本書のメインは「現代の恐怖」のセクション。「都市文明や機械文明は新しいタイプの恐怖を生みだす。ホラー作家はそれに見合った新しいシンボルを発明しなければならない」というライバーの主張の実践だが、60年前の「現代の恐怖」は、もはや古典的な恐怖であり、したがってこれらは古風な怪奇小説にしか見えない。とりわけ、師匠H・P・ラヴクラフトの影響が強いものほど古びた感がある。ひとことでいって習作である。
たとえば“The Inheritance”という短篇。どうせ邦訳は出ないだろうからネタをばらすが、実直な警官がじつは連続殺人鬼だったというサイコ・ホラーの先駆的作品だ。発表当時はずいぶんとショッキングだったのだろうが、いまでは目立ったところのない作品になってしまった。
その点、時間を超越した場所を舞台にした残りの二篇は秀作。だが、この手の作品は当方の編む傑作集には採らないことにしたので、残念ながら収録は見送った。(2008年3月6日)
なんだか変なタイトルだが、Tales from Nights Black Agents (Ballantine, 1961) を直訳すると上のようになる。SFではなく、ホラー・シリーズの1冊として出た本だ。

ライバー最初の著書は、1947年にアーカム・ハウスから出た作品集 Night's Black Agents だが、本書はそこから《ファファード&グレイ・マウザー》シリーズに属すショート・ノヴェル「魔道士の仕掛け」を抜いてペーパーバック化したもの。ちなみに、親本に収録の「魔道士の仕掛け」は、『霧の中の二剣士』(創元推理文庫)収録の改稿版とはすこしちがうので、厳密にいえば未訳である。
じつをいうと、この本の題名がよくわからない。表紙には「Nights Black Agents」、背には「Night's Black Agents」、中扉には「Tales from Nights Black Agents」と書いてあるのだ。いったいどれが正しいのか。
あちらの書誌を見ると、アーカム・ハウス版と区別するために、中扉に記された題名を採るのが慣例のようだが、そうすると重大なミスが見つかる。というのも、題名の由来はシェイクスピアの『マクベス』に出てくる「night's black agents」なので、所有格を示すアポストロフィが落ちていることになるのだ。
重要なミスはこれだけではない。表紙、背、中扉すべてで著者名がライバー(Leiber)ではなくリーバー(Lieber)と誤植されているのだ。ライバーは悲しかっただろうなあ。

さて、肝心の内容だが、目次が面白いので、書き写す――
現代の恐怖(MODERN HORRORS)
煙のお化け
The Automatic Pistol
The Inheritance *The Phantom Slayer 改題
The Hill and the Hole
The Dreams of Albert Moreland *書き下ろし
魔犬
Diary in the Snow *書き下ろし
過渡期(TRANSITION)
若くならない男
古代冒険譚(ANCIENT ADVENTURES)
沈める国 《ファファード&グレイ・マウザー》
アーカム・ハウス版では巻末に「魔道士の仕掛け」が置かれていたわけだ(ここでも「ADVENTURES」と複数形のままになっている。ほんとうに杜撰だなあ)。
ご覧のとおり、本書のメインは「現代の恐怖」のセクション。「都市文明や機械文明は新しいタイプの恐怖を生みだす。ホラー作家はそれに見合った新しいシンボルを発明しなければならない」というライバーの主張の実践だが、60年前の「現代の恐怖」は、もはや古典的な恐怖であり、したがってこれらは古風な怪奇小説にしか見えない。とりわけ、師匠H・P・ラヴクラフトの影響が強いものほど古びた感がある。ひとことでいって習作である。
たとえば“The Inheritance”という短篇。どうせ邦訳は出ないだろうからネタをばらすが、実直な警官がじつは連続殺人鬼だったというサイコ・ホラーの先駆的作品だ。発表当時はずいぶんとショッキングだったのだろうが、いまでは目立ったところのない作品になってしまった。
その点、時間を超越した場所を舞台にした残りの二篇は秀作。だが、この手の作品は当方の編む傑作集には採らないことにしたので、残念ながら収録は見送った。(2008年3月6日)
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