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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.03.20 Wed » 『誘霊灯』

【承前】
 フリッツ・ライバーの傑作集としては The Ghost Light (Berkley, 1984) というすばらしい本がある。もちろん、作品もいいのだが、それ以上に本の造りがいいのだ。

2008-3-4(Ghost 1)

 これは出版プロデューサーのバイロン・プライスが企画した〈SFとファンタシーの傑作〉と題されたシリーズの一冊。トレードペーパーバックの大きな紙面を活かして、ヴィジュアル的にも楽しいものになっている。
 同じ叢書にはいった本としては、かつて邦訳の出たアーサー・C・クラークの『太陽系オデッセイ』(新潮文庫)があるが、ひとりの画家が全作品に挿絵を寄せたアチラとはちがい、この本は作品ごとに画家がちがうという豪華版。しかも、ジョエレン・トリリングという彫刻家が、各作品に出てくる重要な小道具をオブジェにして、その写真を各作品のタイトル・ページに載せている。
 それらの彫刻をある書店のショーウィンドウに飾り、その前でライバー本人がポーズをとっている写真が巻頭に掲げられているのだが、見開きの写真を縮小すると、せっかくのオブジェがよく見えないので、かわりに「跳躍者の時空」に寄せられたオブジェとイラストを載せておく。

2008-3-4(Ghost 2)2008-3-4(Ghost 3)


 収録作品はつぎのとおり――

①The Ghost Light  *書き下ろし
②性的魅力
③A Deskful of Girls  《改変戦争》
④跳躍者の時空  《ガミッチ》
⑤Four Ghosts in Hamlet
⑥骨のダイスを転がそう
⑦珍異の市  《ファファード&グレイ・マウザー》
⑧モーフィー時計の午前零時
⑨Black Glass
⑩Not Much Disorder and Not So Early Sex  *自伝

 例によって未訳作品の説明をしておこう。ただし、既出の③と⑤は省略。
 ①は点灯すると幽霊を集める明かりの話。「誘蛾灯」をもじって「誘霊灯」と造語してみた。非常に自伝的要素の強い作品で、不仲だった息子との関係をゴースト・ストーリーの形で描いている。晩年の作品だけあって、文章や構成にちょっと締まりの欠けるところがあるが、クライマックスの迫力はさすがである。
 ⑨は傑作「あの飛行船をつかまえろ」の姉妹編ともいうべき作品。ニューヨークを訪れた語り手が、知らぬ間に異様な風景の広がる未来にはいりこんでいるのだが、その移行の瞬間がわからないところがミソ。候補がすくなくとも三つあって、タイムスリップ/妄想がいつからはじまったのか判然としないのだ。技巧派の面目躍如である。
 ⑩は単行本1冊の分量は優にある自伝。貴重な写真がたくさん載っている。この自伝を読んで、ライバー作品の秘密がすこし解けたような気がしたものだ。そのあたりは当方の編む傑作集の解説にくわしく書くことにしよう。

 ⑨が秀作なので、これを当方の編む傑作集に採りたかったのだが、最終的に未来を舞台にした作品は除外することにしたので見送り。
 晩年のゴースト・ストーリーとしては“The Button Molder” (1979) という佳作があり、長さも同じ120枚とあって、①とどちらを採るか最後まで迷ったが、父親との関係を象徴的に描いた「二百三十七個の肖像」とテーマ的に対になるので、①を採ることにした(追記参照)。(2008年3月4日)

【追記】
 本が厚くなりすぎるという理由で、けっきょく収録を見送った。
 すでに記したように⑤は「『ハムレット』の四人の亡霊」として『跳躍者の時空』(河出書房新社、2010)に訳出した。



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