fc2ブログ

SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

2024.01 « 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 » 2024.03

2012.10.23 Tue » 『宇宙時代の記憶』

【承前】
 アーカム・ハウスといえば、昨日も書いたとおり怪奇幻想文学専門の小出版社だが、一時期SF方面に大きく舵を切ったことがある。1980年代初頭から1990年代なかばまでの約15年間で、つぎのような作家の本を出した――
 マイクル・ビショップ(3冊)、グレッグ・ベア、ジョアンナ・ラス、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(2冊)、ルーシャス・シェパード(2冊)、J・G・バラード、ブルース・スターリング、マイクル・スワンウィック、ジェイムズ・P・ブレイロック、ジョン・ケッセル、ナンシー・クレス、アレグザンダー・ジャブロコフ、メアリー・ローゼンブラム、イアン・R・マクラウド。SFとの境界線でタニス・リー、マイクル・シェイ。
 このうちティプトリー・ジュニアの『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』(ハヤカワ文庫FT)とシェパードの『ジャガー・ハンター』(新潮文庫)は邦訳がある。

 一部の海外SFマニアにとっては垂涎のラインナップ。その大半が短篇集であるのも嬉しい。ちょうど大手の出版社が新人や中堅の短篇集を出さなくなった時期で、アーカム・ハウスの活動はSF界にとっても比重が大きかった。
 これは四代目(追記1参照)の統括責任者ジェイムズ・ターナーの功績。SFは従来の路線にくらべて部数が多いから実利的な理由もあったのだろうが、同じことをやっていてはジリ貧になるだけだ、という危機感からきた英断だと思われる。もっとも、そのおかげでコアな怪奇幻想文学マニアからは「アーカム・ハウスの伝統を破壊するな」と批判を浴びたらしいが。マニア気質というのは洋の東西を問わないようだ。
 ジェイムズ・ターナーというのも面白い人だが、その紹介は適任の方にまかせるとして、ここでは蔵書自慢をする。

 J・G・バラードの短篇集 Memories of the Space Age (Arkham House, 1988) は、バラードの「宇宙開発もの」を集成した短篇集。発行部数は4903だそうだ。バラードにしてこの数字か、と思うべきか、バラードだからこの数字だ、と思うべきか。ちなみにペーパーバック版は出ていない。

2008-2-6(Myths 1)

 ジャケットにはエルンストの名画「雨の後のヨーロッパ」があしらわれ、なかにはJ・K・ポッターのイラストがふんだんにはいっている。持っているだけで嬉しい本だ。自慢ついでにポッターのイラストも載せておく。

2008-2-6(Myths 2)

 例によって目次を書き写すと――

砂の檻
地球帰還の問題
死亡した宇宙飛行士
ウェーク島へ飛ぶわが夢
News from the Sun
宇宙時代の記憶
近未来の神話
月の上を歩いた男

 ご覧のとおり、非常に質の高い作品ばかり。これは日本版を出す価値があると思う。未訳は1篇だけだが(追記2参照)、邦訳はいろんな短篇集に分散しているうえに、多くは入手困難なので、1冊にまとめる意義はあるはずだ。
 と思って複数の出版社に話を持ちかけたが、色好い返事はもらえなかったのだった。嗚呼無情(追記3参照)。(2008年2月6日)

【追記1】
 社主で編集長だったオーガスト・ダーレスが1971年に亡くなったあと、共同設立者だったドナルド・ウォンドレイ、ついでロデリック・メンが編集長となったが、期間は合わせて4年にすぎなかった。1975年にターナーが編集長となり、1996年までその任に当たった。

【追記2】
 この時点で未訳だった1篇は、J・G・バラード追悼特集を組んだ〈SFマガジン〉2009年11月号に「太陽からの知らせ」として訳出された。

【追記3】
 バラードは本国で短篇全集が刊行されているため、短篇集のバラ売りはしてくれなくなった。したがって、この本の日本版を出せる可能性はほぼなくなった。
 余談だが、バラードの短篇集『ヴァーミリオン・サンズ』が再刊されないのは上記の理由だそうだ。
 短篇集が品切れにならず、契約が更新されていれば、その短篇集を出しつづけることは可能だが、いったん契約が切れた場合はそうはいかない。前に出ていた本だからといって、無条件に再刊できるわけではないのだ。こうした事情はめったに公にならないが、版権上の理由で、出したくても出せない本があることは理解しておいたほうがいい。

スポンサーサイト