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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.09.08 Sat » 『サルナスをみまった災厄』

【前書き】
 ハミルトンのある短篇を話題にしたいのだが、元の日記が連想ゲームのようにして書かれているので、その前の日記を読まないと話がつながらない。いい機会なので、以下の記事も公開することにした。

 この記事は2007年12月15日に書いたものだが、竹岡啓氏からご教示を受けたので、それを踏まえて一部を書き改めた。追記の形にすると、かえってわかりにくくなるからである。竹岡氏に改めて感謝する。


 出たばかりの『ラヴクラフト全集 別巻下』(創元推理文庫)を読みおわった。
 国書刊行会から出た『定本ラヴクラフト全集』は、評論篇、詩篇、書簡篇だけを読んだという奇特な読者なので、今回はじめて読む作品が多かったのだが、ケニス・スターリングと共作した「エリュクスの壁のなかで」という作品がちょっと気になった。

 金星を舞台にした典型的なパルプSFで、作品としては可もなく不可もない。では、どうして気になったかというと、出てくる動植物の名前がSF関係者のもじりだと気づいたからだ。

 ラヴクラフトという人は意外にお茶目で、こういう楽屋オチをしばしば作中にとり入れる。僚友クラーク・アシュトン・スミスをもじった「アトランティスの大祭司クラーカシュ=トン」や高弟オーガスト・ダーレスをもじった「ダレット伯爵」といった人名が作中に出てくるのは、ご存じのかたが多いだろう。

 編者大瀧啓裕氏の解題を見たら、楽屋オチの趣向に触れてあったが、もじりらしい固有名詞8つのうち5つしか解説していない。残りが気になったので、元の綴りを確認するため、原文を収録した本を書棚から引っぱり出してきた。

 伝説的なバランタイン〈アダルト・ファンタシー〉シリーズ中の1冊、リン・カーター編の The Doom That Came to Sarnath (Ballantin, 1971) である。表紙絵はジャーヴァシオ・ギャラードー。参考までに裏表紙もスキャンして載せておく。

2007-12-5(Sarnath 2)2007-12-15(Sarnath 1)


 さて、問題の固有名詞だが、まず大瀧氏の解説している分から。原綴り、訳語、正体の順にならべる――

akman アクマン(F・J・アッカーマン)
tukah タカア(ボブ・タッカー、作家名ウィルスン・タッカー)
ugrat ウグラット(ヒューゴー・ガーンズバック)
farnoth-fly ファルノス蝿(ファーンズワース・ライト)
efjeh-weed エフジェイ草(F・J・アッカーマン)

 いずれも気色悪い動植物の名前。ちなみにウグラットは「ドブネズミのヒューゴー」から来ているそうで、これは解題を見るまで気づかなかった。ラヴクラフトはよっぽどガーンズバックが嫌いだったのだろう。

 つぎに解説のなかった分――

skorah スコラア(ウィリアム・S・シコラ)
Daroh ダロウ(ジャック・ダロウ) 
scificligh シフィクライ(サイエンス・フィクション・リーグ)

 上は当時のSFファンダムの大物で、数々の悶着を起こし、敵対関係にあったファングループをつぶしたシコラのことだと思う。「本物の肉食獣」と書かれているのでまちがいないだろう。
 真ん中は、やはり当時の大物SFファンで、下のグループの重鎮だった人。ちなみに、ほんとうの綴りは Darrow。
 下は「シフィクライ」という大瀧表記にまどわされてはいけない。素直に「サイフィックリグ」と読めば、当時のSFファン組織、「サイエンス・フィクション・リーグ」だとわかる。「泥に棲んでいる」動物だそうだ。

 ついでに書いておけば、当時のSFファン活動については、野田昌宏著『「科學小説」神髄』(東京創元社、1995)の第6章に詳しい記述がある。当方はこれを読んでいたので、上の名前に気づいたのだった。

 さらに、余談だが、同書にはリン・カーターが懇切丁寧な解説を付している。この作品に付された部分を見ると、カーターは何度かスターリングと会ったことがあり、夫妻を自宅に招いたこともあるそうだ。
 1970年に開かれたSF大会で、スターリングが若いファンに無視されているのを見てカーターは悲しくなる。そして思うのだ、自分たちと同年代のとき、スターリングがラヴクラフトその人と共作した事実を知ったら、この若いファンたちはどんなに驚くだろうかと、と。(2007年12月15日)

【追記】
 書き忘れていたが、The Doom That Came to Sarnath (1971) は、リン・カーターが編んだH・P・ラヴクラフト作品集で、主に異世界ファンタシー系を集めている。全部で20篇が収録されており、そのうち3篇が共作/代作である。

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