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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.01.29 Tue » 誤訳の実例

 昨日チャールズ・L・ハーネス作「現実創造」の旧訳は誤訳だらけだと書いた。実例を示さないと、いいがかりになってしまうので、具体例を示すことにした。

 まずは最後からふたつめのパラグラフ。「科学の危険性とその馴致」というテーマの結論部である。

 And they'd keep it this way, simple and sweet, forever, and their children after them. To hell with science and progress! (Well, within practical limits, of course.)

中上守(川村哲郎)訳
 単純にして甘美な、この素晴らしい世界は永久にわたしたちのものだ、そしてわたしたちの子孫のものなのだ! 科学も進歩もくそくらえ!(「どうせ、そんなものは、ごく限られた範囲でしかあり得ないことなのだから」)

拙訳
 世界は永久にこのままにしておこう、単純素朴で美しいままに。子供たちにも、そのまた子供たちにもそうさせよう。科学や進歩なんてくそくらえだ! (まあ、もちろん、実用的な限度内でなら大目に見るが)

 ご覧のとおり、中上訳は意味が逆になっている。作品のテーマを理解していれば、こんな誤訳をするはずがないのだが。

 中上訳はこの程度の誤訳が各ページにひとつくらいあると思ってもらっていい。そのひとつひとつ検証するわけにはいかないので、いちばん笑えた誤訳を紹介しておく。

 諜報部員の主人公が、暗闇にまぎれて、ある科学者を監視している場面。

 Prentis had clipped the hairs from his norstrils and so far had breathed in complete silence.

中上訳
 プレンティスは一本一本、丹念に鼻毛を抜きながら、息を殺してじっと潜んでいた。

拙訳
 プレンティスは鼻毛をぬく処置をすませていた。おかげでこれまでのところは、まったく音をたてずに呼吸していた。

 中上訳を読むと、のんきな諜報部員に思えるが、じっさいは敏腕なのである。(2007年12月12日)

【追記】
 本文中の中上守訳は〈SFマガジン〉1990年10月号掲載の「現実創造」より引用した。これは1964年7月号に川村哲郎名義で掲載されたものの再録である。

 拙訳は中村融/山岸真編『20世紀SF①1940年代 星ねずみ』(河出文庫。2000)より引用した。

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