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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.03 Fri » 『ラムダ・1』

【前書き】
 以下は2007年12月1日に記したものである。


 イギリスのSF作家、コリン・キャップが8月3日に亡くなっていたそうだ。1928年生まれだから、享年78か79。寿命ということだろうが、やっぱり寂しい。

 訃報が広まるのがこんなに遅れるくらいだから、英米でもマイナーな存在だったとわかる。もちろん日本でも無名に近く、邦訳は短篇3つしかない。
 そのなかで比較的知られているのが、山本弘編のアンソロジー『火星ノンストップ』(早川書房、2005)に収録された「ラムダ・1」だろう。超空間航法船の事故をあつかった作品で、異様きわまりない空間の描写が読みどころだ。

 しかし、当方にとってキャップといえば、なんといっても「タズー惑星の地下鉄」である。異星に遺された地下鉄らしきものを復旧しようと悪戦苦闘する男たちをユーモラスに描いたハードSF。〈SFマガジン〉1976年2月号で読んで、浅賀行雄のイラストともども強く印象に残っている。
 この作品が属す《異端技術部隊》シリーズは、連作短篇集にまとまっているので、そのうち手に入れよう。

 残念ながら、この人の本は1冊も持っていない。それに一番近いのが、前述の「ラムダ・1」を表題作にしたアンソロジーだ。ジョン・カーネル編の Lambda 1 (Berkley, 1964) である。

2007-12-1(Lamda 1)

 この本のコンセプトが面白い。イギリスSFの現状をアメリカの読者に知らしめるのを目的としているのだ。編者はイギリスSFの牙城〈ニュー・ワールズ〉の編集長だった人で、自分の好みとは関係なく、同誌の読者に好評だった作品を集めたといっている。
 編者は序文で「本書はアメリカ国内で未発表の外国SFを外国人の編集者が編んだ初のアンソロジーである」と力説している。なるほど、英米はそれくらい離れていたのだなあ。
 
 参考までに目次を書き写しておくと――

ラムダ・1  コリン・キャップ
協定の基盤  ブライアン・W・オールディス
Quest  リー・ハーディング
All Laced up  ジョージ・ホワイトリー
定期訓練  フィリップ・E・ハイ
乱流  マイクル・ムアコック
The Last Salamander  ジョン・ラッカム

 見てのとおり〈オールド・ウェーヴ〉主体のラインナップ。62年にはバラードの「内宇宙への道はどちらか?」が発表され、64年には〈ニュー・ワールズ〉がムアコック体制に移行して、〈ニュー・ウェーヴ〉運動は始動していた。したがって、いまの目で見ると、これをイギリスSFの現状というのは違和感がある(ついでに書いておくと、ハーディングとホワイトリーはオーストラリア人)。
 それにしても、キャップとムアコックが新人として同列にあつかわれているのを見ると、隔世の感に打たれずにはいられない。

 ところで、わが国の〈SFマガジン〉は、ある時期同書を参考に掲載作を決めたと思しい。同誌65年10月号に「ラムダ・1」、66年6月号に「定期訓練」、同年7月号に「乱流」が、それぞれ訳載されているのである。(2007年12月1日)

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