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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.04.20 Sat » 『サマルカンドの王』

【前書き】
 以下は2007年11月17日に書いた記事である。誤解なきように。


 例によって蔵書自慢。今回はシンガポールで買ってきた本だ。

 シンガポール一の繁華街、オーチャードの中心にボーダーズという英米系の本屋がある(追記1参照)。ここのSF&ファンタシー棚が充実していて、2時間半かけて隅から隅まで検分してきた。

 もっとも、輸入税がかかるので、すべての本が割高。したがって、基本的にはめぼしいタイトルを頭に刻みこむだけで、じっさいに買ったのは2冊にとどまった。そのうちの1冊がロバート・E・ハワードの Lord of Samarcand And Other Tales of the Old Orient (Bison, 2005) である。

2007-11-17(Lord of )

 表題からわかるとおり、東洋を舞台にした歴史冒険小説集。この場合の東洋は、コンスタンチノープルから中央アジアまでを指す。十字軍時代の話が多く、それ以外の作品も、多くはキリスト教徒とイスラム教徒の争いを背景にしている。
 編集ラスティ・バーク、序文パトリス・ルネと、当方がもっとも信頼している学者コンビの仕事。例によってかゆいところに手が届く仕事ぶりで、小説11篇、詩が1篇、創作メモや書きかけの草稿が9篇おさめられている。これでハワードの東洋歴史冒険譚はすべてだという。
 もちろん、L・スプレイグ・ディ・キャンプが《コナン》シリーズに改作した2篇(追記2参照)や、レッド・ソーニャという名前のロシア人女剣士が登場することで有名な作品もはいっている(追記3参照)。

 じつをいうと、この本は小さな大学出版局から出たもので、余裕があるときに買おうと思っていた。というのも、小説11篇のテキスト自体はすべてべつの短篇集で持っていたからだ。あせって買うことはなかったのである。

 ところが現物を目にしたとたん、物欲がむくむくと頭をもたげてきた。いま買わないと、二度と手にはいらないような気がしてきた。そういうわけで迷わず買ったしだい。

 付録のうち5篇は未発表のものだが、これを喜ぶのはよほど熱心なハワード・ファンか、研究者くらいのものだろう。当方はその両方なので、きっと大喜びするだろう。大喜びするにちがいない。大喜びするはずだ。大喜び……。

 せっかくの機会なので、表題作の紹介をしておく。
 「サマルカンドの王」とは、実在した中央アジア出身の征服者、隻脚のティムールのこと。その死には歴史に記載されていない秘密があり、そこにはひとりのスコットランド人剣士がかかわっていた、という内容である。

 主人公のドナルド・マクディーサは、故郷を追われて十字軍に身を投じたスコットランド人剣士。彼の居住地ニコポリスは、スルタン、バヤジッド率いるオスマン・トルコの大軍に攻撃され、全滅の憂き目にあう。大虐殺の場から血路を開いて脱出したドナルドは、タタール人征服者ティムールの右腕アク・ボガに拾われ、ティムールに仕えることになる。ドナルドの目的はただひとつ。バヤジッドへの復讐である。

 六年後。ともに勢力を拡大するタタール軍とトルコ軍は、一触即発の危機を迎えていた。ある日バヤジッドの宮廷にドナルドがやってくる。これまでティムールのもとで剣をふるってきたが、あまりの冷遇に耐えかねて、寝返ることにしたのだという。そしてタタール軍の動きを読んでみせ、バヤジッドの信頼を得る。

 ついに両軍がぶつかりあう。だが、トルコ軍はタタール軍の罠にはまって大敗を喫する。もちろん、すべてはドナルドの策略だったのだ。ドナルドは狼狽するバヤジッドを打ち倒し、哄笑を響かせるのだった。
 ドナルドの一撃を生き延びたバヤジッドは、ティムールの捕虜となる。辱めを受けたバヤジッドは、みずから死を選び、ドナルドの復讐は完遂する。

 ところが、これで話は終わらない。飽くなき征服欲に駆られたティムールは、その後も侵略戦争をつづける。将軍にとりたてられたドナルドは、つねにタタール軍の先鋒として困難な闘いを強いられる。闘いに倦み、異邦人としての疎外感にむしばまれたドナルドは、いつしか虚無的な気分におちいっていく。唯一のなぐさめは、ペルシア人の愛妾ズレイカの肉体に溺れることだけ。

 そして無謀ともいえる中国遠征がはじまる。例によって、不可能とも思える任務をあたえられたドナルドは、難攻不落の都市オルドシャールの攻略に成功する。だが、代償は大きかった。部下の大半を失い、みずからも重傷を負ったのである。

 瀕死のドナルドは、ティムールの宮廷へ運ばれる。「ズレイカはどこだ? ズレイカに会わせてくれ」と彼は懇願する。だが、ズレイカは、謀反にかかわった廉で処刑されていた。逆上したドナルドは、隠し持っていた拳銃でティムールを射った直後に息絶える。

 虫の息のティムールはいう。「余がヨーロッパ人の犬の手にかかったことは、だれにも知られてはならぬ。余はアッラーの思し召しで逝くのだ。書記にそう記録させよ」
 こうしてティムールは世を去ったのである。

 ハワードの作風が顕著に出ているので、すこしくわしく記してみた。
 よく誤解されるのだが、ハワードの歴史冒険小説は、けっして明朗快活なものではない。むしろ虚無感が基調になっている。闘いのむなしさ、人生のはかなさといったものが前面に出ているのだ。ケルトの血のなせる業、とハワード本人は考えていたようだ。本篇でも主人公はゲール人と呼ばれている。(2007年11月17日+2013年4月16日)

【追記1】
 この書店はもうない。

【追記2】
“The Road of Eagles”→同題。邦訳は「荒鷲の道」
“Hawks over Egypt”→“Hawks over Shem”。邦訳は「セムの禿鷲」あるいは「狂爛の都」

【追記3】
“The Shadow of Vulture”のこと。くわしくは2012年8月29日の記事を参照。

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