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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.05.22 Wed » 『大航海』

【承前】
 バクスターの名誉のために傑作を紹介しておこう。Voyage (Harper Collins, 1997) である。

2007-3-3(Voyage)

 簡単にいえば、改変歴史上の世界における宇宙開発もの。
 歴史の分岐点は1963年。ジョン・F・ケネディがダラスで狙撃されたが、一命をとりとめたことで歴史が変わり、NASAの宇宙開発が順調に進展して、1980年代に初の有人火星探査が行われる。その過程を迫真の筆致で描いた擬似ノンフィクション・ノヴェルだ。

 バクスターはこの作品を書くにあたって、トム・ウルフの『ザ・ライトスタッフ』やアンドルー・チェイキンの『人類、月に立つ』を徹底的に研究したようだ。その成果は如実に出ていて、従来の作品とはまったくちがった文体を手に入れている。本書の魅力は、この乾いたなかにも詩情をただよわせる文体に負うところが多い。
 
 だが、それ以上に魅力的なのは、宇宙開発に関するディテールだ。圧倒的な情報量で「あり得たかもしれない有人火星飛行」を克明に描いている。知らない人が読んだら、本物のノンフィクションと勘違いするのではないだろうか。

 主軸となる人間ドラマも秀逸。通俗的といえば通俗的だが、技術用語や数字が氾濫するストーリーなので、ちょっとクサイくらいほうがいいのだろう。男性優位のNASAで奮闘する女性地質学者(の宇宙飛行士)、典型的なテスト・パイロットである男性宇宙飛行士。ナチの強制収容所で生き残ったロケット技術者。この3人の人生が、火星探査とのかかわりで詳述されていく。
 
 この本は出た直後にリーディングで読んだ。あまりにも感激したので、すぐにレジュメを出して、ぜひ邦訳を出したいといった。そうしたら「ウチではそんなものは出しません」といわれたのだった。
 
 もっとも、いまになって考えると、その判断は妥当だったのかもしれない。
 たしかに、これは読者を選ぶ本だ。NERVAという略語を見て、「おおー!」と興奮できる人間がどれだけいるか。ここに書かれた歴史と現実の歴史の微妙な差異を見きわめ、ニヤニヤできる人間がどれだけいるか。しかも邦訳して1500枚近い大作。なるほど、おおかたの読者には、労多くして実り少なしの本になってしまうだろう。未訳のままで正解ということか。(2007年3月3日)

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