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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.05.20 Mon » 『痕跡』

【前書き】
 以下は2007年2月27日に書いた記事である。誤解なきように。


 思うところあって、スティーヴン・バクスターの短篇を集中的に読みなおしている。まずは第一短篇集 Traces (Voyager, 1998)の未訳作品だけ再読した。ちなみに、当方が持っているのは、例によって翌年に出たペーパーバック版である。

2007-2-27(Traces)

 さて、この本には1988年から97年にかけてバクスターが発表した21の短篇が収録されている。バクスターがデビューしたのは87年だから、最初期から中堅作家としての地位を確立するまでの時期の作品がならんでいるわけだ(ただし、《ジーリー》シリーズに属す作品は、べつにまとめられている)。歯に衣を着せずにいえば、どうしようもなく下手な作家が、小説技術を実地で習得していく過程が明らかになっている。

 邦訳があるのは「痕跡」('91)、「コロンビヤード」('96)、「ゼムリャー」('97)、「月その六」('97)の4篇。さすがに、この作品集のなかではトップ・クラスの作品ばかり。未訳作品のなかに、あとの三つを超えるものはない。

 とにかく初期の作品は、どれもこれも類型的で、まとめて読むと苦痛。「異星に行ったら変な生物がいました」というパターンと、「異星の苛酷な環境に適応して、人類はこんなに変わりました」というパターンのふたつしかないのだ。『ジーリー・クロニクル』という作品集を読んだ方なら、どんなものか想像がつくだろう。要するに、ラリー・ニーヴンとジェイムズ・ブリッシュの二番煎じである。

 ところが、改変歴史ものを書きはじめたころから、題材の幅が広がり、構成力や文章そのものも向上してきて、読ませる作家になりはじめた。たぶん「改変世界の宇宙開発もの」という金脈を掘りあて、ノンフィクション・ノヴェル風の文体を手に入れたのと、イギリスSFの伝統にめざめて、ステープルドン風の作品に手を染めるようになったのが主因だろう。ここから関心がさまざまな方向へ広がって、宇宙ハードSFに限定されない現在のバクスターに変貌するわけだ。

 というわけで、未訳作品のなかで「これぞ」というのは、世界初の飛行機をウェールズ人が開発していたという改変歴史もの“Brigantia's Angels” ('95) と『地球の長い午後』風の遠未来SF“George and the Comet” ('91)くらい(追記参照)。
 それにしても、読んでいるあいだ、光瀬龍やら小松左京やら豊田有恒やらの作品が連想されてしかたがなかった。けっきょく、そこが当方の心の故郷なのだなあ。(2007年2月27日)

【追記】
 後者は「ジョージと彗星」という訳題で〈SFマガジン〉2010年11月号に訳出できた。
 ちなみに、バクスターには“Poyekhali 3201”と、題名からして光瀬龍風の宇宙小説がある。

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