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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.10.06 Sat » 『十三の幻影その他の短篇』

 ジェイムズ・P・ブレイロックの短篇集 13 Phantasms and Other Stories (2000) を読んだ。
 初版はエッジウッド・プレスという小出版社のハードカヴァーだが、2003年にエースからトレード・ペーパーバックが出て、2005年にマスマーケット版が出た。当方が持っているのは、もちろん最後の版である。

2007-1-2(13 Phantoms)

 本書はブレイロックの第一短篇集で、1977年に〈アンアース〉に発表されたデビュー作から1998年発表の近作まで16篇を集めている。うち2篇がティム・パワーズとの共作。
 邦訳があるのは「十三の幻影」、「偶像の目」、「ペーパー・ドラゴン」の3篇。
 ちなみに「偶像の目」は『ホムンクルス』でおなじみのセント・アイヴスが活躍する話であり、同シリーズに属す作品はほかに2篇収録されている。“The Ape-Box Affair”のほうは、オランウータンを宇宙人と勘違いしたことから巻き起こるドタバタ、“Two Views of a Cave Painting”のほうは、原始人が洞窟壁画を描いてる現場を見にいく時間旅行譚。この3篇は、本書のなかでは異彩を放っている。

 というのも、通読してわかったのだが、ブレイロックの本領はノスタルジックなダーク・ファンタシーにあるからだ。誤解を恐れずにいえば、レイ・ブラッドベリに似た資質の持ち主である。ただし、ブラッドベリの心の故郷が1920年代のイリノイ(田園)であるのに対し、ブレイロックの心の故郷は1950年代のカリフォルニア(郊外)。このちがいが意外に大きくて、ブレイロックの作品のほうが深い喪失感と苦みをたたえることになる。荒廃の進み具合が早く、大きいからだ。
 その意味で集中ベストは表題作。次点はトリを飾る“Unidentified Object”だろう。

 前者は発表当時に読んで気に入って、〈SFマガジン〉に邦訳を載せたことがある(追記1参照)。古いSF雑誌が鍵になるジャック・フィニイばりのタイムスリップもの。後者は、街に住む変わり者を中心にした青春小説とでもいおうか。SF的要素はメタファーでしかない現代文学である。

 それにしても、「スチームパンク」というキャッチフレーズは、わが国においてブレイロックに対して不利に働いた。人は小説の内容を読まずにレッテルを読むのだなあ、と思わされることもたびたびだが、ブレイロックはその典型。
 なにしろ、1960年代のカリフォルニアを舞台にした擬似パルプ・マガジン風アドヴェンチャー『リバイアサン』(ハヤカワ文庫FT)すら、たいていの人はヴィクトリア朝イギリスが舞台の「スチームパンク」だと認識しているのだ(追記2参照)。同書が大好きだという人間までが、「ここに出てくる蒸気機関は美しい」とのたまうのを聞いて、あいた口がふさがらなかったことがある。同書に出てくる掘削機械は、反物質を燃料にした反重力エンジン(という名目の魔法)で動くのだよ!(2007年1月20日)

【追記1】
 同誌1998年11月号。この号は当方の企画・監修で「世界幻想文学大賞&ブラム・ストーカー賞特集」を組んだ。「十三の幻影」は、1997年度世界幻想文学賞短篇部門を受賞している。
 
【追記2】
 この後スチームパンクの概念は大幅に拡大したので、いまならスチームパンクで通るだろう。「蒸気」よりは「歯車/時計仕掛け」のほうが大事な要素となったからである。

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