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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.27 Wed » 「失われた者たちの谷」のこと

【前書き】
 世界一のロバート・E・ハワード研究家で、その遺産管理人だったグレン・ロードが、2011年12月31日に亡くなった。享年80。ロードの業績の恩恵を受けてきた身としては、心から残念でならない。

 以下の記事はロード追悼のために書いた一連の記事のひとつだが、今回さる事情で公表することにした。くわしいことは追記をお読みいだただきたい。


 当方はグレン・ロードを尊敬してやまないが、ロードも人の子なので誤りを犯すことは知っている。面白いので、ちょっとそのことを書く。

 ハワードが自殺したとき、彼の部屋には大型のトランクが遺されていた。そこには書きかけの原稿やら、創作メモやら、完成した未発表原稿やらが未整理のまま大量に詰めこまれていた。

 このトランクは当初父親のもとにあったが、その死後、ハワードと親交のあった作家、E・ホフマン・プライスに譲られた。プライスはこのトランクを放置したばかりか、ときどき原稿の一部を自作に流用したりしていた。

 20数年後にこのトランクをプライスから購入し、整理にあたったのが、新たにハワードの遺産管理人に指名されたロードなのだ。もともとはL・スプレイグ・ディ・キャンプが指名されたのだが、面倒を嫌って、その役をロードに押しつけたのである。

 まあ、このあたりの事情をくわしく書いているときりがないので、割愛。

 ともあれ、ロードは雑然をきわめる原稿の山を整理し、発表できる形になったものを続々と世に出していった。

 あるときロードは、モンゴルの奥地を舞台にしたSF的なストーリーの完成原稿を発見した。題名はついていないが、内容から見て、〈ストレンジ・テールズ〉に予告が出たものの、掲載される前に雑誌が廃刊になったため未発表に終わった “The Valley of the Lost” だと判断し、その題名で〈マガジン・オブ・ホラー〉1966年夏号に発表した。

 ところが、この判断が誤りで、ほんとうの “The Valley of the Lost” があとから出てきたのだ。こちらはアメリカの西部を舞台にした、ウェスタンとコズミック・ホラーの融合であった。
 困ったロードは、こちらに “Secret of Lost Valley” と題名をつけて〈スタートリング・ミステリ・ストーリーズ〉1967年春号に発表した。

 さて、前者は “King of the Forgotten People” と改題され、この題で各種の単行本にはいることになった。後者は “The Secret of Lost Valley” の題名で Robert E. Howard Omnibus (1977) にはいったが、その後は本来の題で各種の単行本にはいるようになっている。
 
 しかも、両者とも頭に定冠詞 The がつく場合とつかない場合がある(ハワードはつけないことが多いが、編集者がつけ足すと思われる)。

 というわけで、この2篇は書誌学者泣かせで、各種の資料が混乱しているのである。

 じつは先日ついに創刊号が出たホラー&ダーク・ファンタジー専門誌〈ナイトランド〉の2号に後者を訳載する予定で、先ほどゲラを見終わったところなのだ(追記参照)。だいぶ先の話だが、楽しみにお待ちいただきたい。(2012年3月21日)

【追記】
 上記の作品は「失われた者たちの谷」という題名で〈ナイトランド〉2号に掲載された。ところが、不幸なことに製作の過程でミスが生じ、不完全な形で流布することになってしまった。このミスは単純な誤字・脱字にとどまらず、文章の欠落や、語句の位置のずれにまでおよんでいる。

 この事態を承け、編集部と相談のうえ、版元のウェブサイトに謝罪の言葉と正誤表を掲載してもらうことになった。

http://www.trident.ne.jp/j/NL/faq/post-4.html

 ご面倒ながら、正誤表と照らしあわせて読んでもらえればさいわい(版元の「お詫び」はトップ・ページに掲載されている)。


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