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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.08.15 Wed » 『ファンタシーの新世界第三集』

【承前】
 テリー・カー編 New Worlds of Fantasy #3 (Ace, 1971)。この巻ではイラストをアリシア・オースティンが担当している。これがフリース以上にすばらしい絵で、うれしいかぎり。

2006-7-10(New Worlds 3)

 収録作品はつぎのとおり――

「ファレルとリラ」ピーター・S・ビーグル
「アダムには三人の兄弟がいた」R・A・ラファティ
Big Sam アヴラム・デイヴィッドスン
Lomgtooth エドガー・パングボーン
「冬の蝿」フリッツ・ライバー
「ヴォン・グームの手」ヴィクター・コントスキ
「鏡にて見るごとく――おぼろげに」ゼナ・ヘンダースン
「吸血機伝説」ロジャー・ゼラズニイ
Sleeping Beauty テリー・カー
「プロットが肝心」ロバート・ブロック
「記憶の人フネス」ホルヘ・ルイス・ボルヘス
「風にさようならをいおう」J・G・バラード
「チャリティからのメッセージ」ウィリアム・M・リー

 未訳作品について触れておくと、カーの作品は童話の残酷パロディ。デイヴィッドスンとパングボーンは、雪男/ビッグ・フット/サスカッチの話。第二集にはいっていたカー自身の作品もビッグ・フットの話だったので、編者はこのテーマにご執心らしい。
 余談だが、メリルの年刊傑作選にも、ウィリアム・サンブロットの「雪男」という佳作がはいっていたのを思いだす。この時代には実在説に信憑性があり、強力な諷刺の道具となり得たのだろう。いまは遠いむかしである(そういえば、ほぼ同時代にはわが国にも香山滋の「獣人雪男」があったし、チェコのネズヴァドヴァにも「忌まわしき雪男」という未訳作品があった。古くなるが、E・F・ベンスンに「恐怖の山」という作品もある。探せばまだまだあるにちがいない。そのうち架空アンソロジーを編んでみよう)。

 三冊を通じて登場するのが、ボルヘス、デイヴィッドスン、ラファティ、ゼラズニイ、カー自身。二回登場したのが、ビーグル、ディッシュ、バラード、ブロック。編者のねらいが那辺にあったのかよくわかる。いわゆる異色作家短篇をプロモートすることで、従来のファンタシー観を変えていこうとしたのである。
 前に書き忘れたのが、旧来のファンタシー観には、いわゆるアンノウン型ファンタシーを偏重するSFファン特有の思考法(ファンタシーはSFの一部である)もふくまれる。この誤解はわが国でも40代以上の読者にしばしば見られるもので、当方などよく歯噛みしたものだが、カーも似たような気持ちだったのではないだろうか。

 念のために書いておくが、表題に見られるように、本書のねらいは「新しいファンタシー」である。メリルがめざした「SFの拡大」とはちがう。
 ボルヘスを大きくとりあげたのは、非英語圏作家を重視する(当時の)カーの姿勢のあらわれだろう。『伝奇集』の英訳が1962年なので、カーがボルヘスに注目したのは、アメリカではかなり早い時期だった。

 それにしても、あらためて作品を列記すると、自分がこのラインナップからいかに強い影響を受けているかわかる。蛇足だが、「チャリティからのメッセージ」もそのうち新訳を世に出す予定である。乞御期待(追記参照)。(2006年7月10日)

【追記】
「チャリティのことづて」の訳題で拙編のアンソロジー『時の娘――ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫、2009)に収録した。


 
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