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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.05.18 Sat » 『西部小説ベスト10』

 昨日書いたとおり、ウェスタンの魅力は風景描写だという説があって、当方はそれを信じている。たとえばつぎの文章を読んでほしい――

「私が腰をおろしているところは、まっ白い冬だった。そして私が見おろしているあたりには、まだ秋がぐずついていた。山のすそに、ウィンド・リヴァーが、まるで地図でも眺めるように、小さく見える。谷間は日光を浴び、黄かっ色の土地は、みるからに暖かそうで、眠気をさそうようだ。南東の方角にまがりくねってのび、黄かっ色の平野につながって、やがて空と大地がひとつにとけ合い、ぼんやりとかすんでいた。孤立した山がいくつかちらばり、いちばん遠い丘の向うの、静かな平地のどこかに、ひっそりと隠れて、私の夢がよこたわっている。スティル・ハント・スプリングだ」(山下諭一訳)

 オーウェン・ウィスターの「贈られた馬」という短篇の冒頭である。もう、書き写しているだけで痺れる。まさに映画のロングショット的描写だが、そこに冒頭の隠喩(冬と秋)や「私の夢がよこたわっている」という語り手の主観を織り交ぜて、文章ならではの魅力を生みだしているのだ。凡手の技ではない。

 ――余談だが、ウェスタンが衰退した理由のひとつがこれだろう。小説において、ストーリーと会話ばかりが重視される風潮が進み、風景描写は読むのが面倒くさいという理由で嫌われるようになったのだ。さて話をもどして――

 この短篇は『西部小説ベスト10』(荒地出版社、1961)というアンソロジーにはいっている。四六判、上下2段組で200ページちょっとのハードカヴァー。同社からは、おなじころ推理小説やSFのアンソロジーがたくさん出ていたので、その一環として出たと思しい。

2011-6-30 (Western)

 解説のたぐいが一切ない不親切な本だが、かろうじて代表訳者、清水俊二によるわずか1ページの「訳者あとがき」に「ここにあつめられた十編はいずれも短編だが、〝サタディ・イヴニング・ポスト〟誌が特集したものだけあって、さすがにつぶがそろっている」という記述がある。とすると、雑誌の特集を丸ごとか、それに近い形で訳出したものと推測されるが、果たして真相やいかに。

 収録はつぎのとおり――

1 無法者の行く道  S・オマー・バーカー (清水俊二訳)
2 ユマへの駅馬車  マーヴィン・デブリーズ (田中小実昌訳)
3 旅がらす  クリス・ファレル (中桐雅夫訳)
4 レッド峡谷からきた女  マイケル・フェシア (中桐雅夫訳)
5 事件の真相  ブレット・ハート (三田村裕訳)
6 死者の追跡  アーネスト・ヘイコックス (鮎川信夫訳)
7 はやまった絞首刑  モーガン・ルイス (橋本福夫訳)
8 トップ・ハンド  ルーク・ショート (北村太郎訳)
9 早撃ち  R・パトリック・ウィルモット (伊藤尚志訳)
10 贈られた馬  オーウェン・ウィスター (山下諭一訳)

 このうち2はハヤカワ文庫のアンソロジー『駅馬車』に田中小実昌訳のまま再録された。6も同書にはいっている「死人街道」(三田村裕訳)と同一作品だと思うが、いま手元に『駅馬車』の現物がないので確認できない。ご存じの方はご教示願いたい(追記参照)。

 不勉強ゆえ、ハート、ヘイコックス、ショートの三人以外は知らない作家だが、収録作の水準はおしなべて高い。集中ベストは2か9だろう。ああ、死ぬまでに1篇くらいはウェスタンを訳したいなあ。(2011年6月30日)

【追記】
 のちに同一作品だと確認した。

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