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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.07.26 Thu » 『白鹿亭綺譚』

【前書き】
 以下は2011年6月23日に記したものである。


  うれしい本が届いた。アーサー・C・クラーク著 Tales from the White Hart (PS Publishing, 2007)だ。
 普及版ハードカヴァー限定500部のうち27番。クラークのサイン入り。

2011-6-23(White Hart 3)


 表紙絵がなかなかいいので裏表紙もスキャンしておいた。画家はなんとJ・K・ポッター。へえ、こんな絵も描くのか。

tales1tales2

 これはクラークのユーモアSF連作として有名な『白鹿亭綺譚』の50周年記念版。邦訳のある1957年版とのちがいは、①スティーヴン・バクスターの序文、②クラークが1969年版に寄せた「まえがき」、③新作短篇(バクスターとの共著)の収録である。

 お目当てはもちろん③。ハヤカワ文庫で《ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク》を編んだとき、クラークの中短篇はすべて読んだつもりだったのだが、当時はこの短篇のことを知らずに読みもらしていた。昨年その存在に気づいたのだが、すでに新刊では手にはいらず、貧乏翻訳家にはおいそれと手が出ない古書価がついていた。ようやく手の出る値段のものを見つけたので、今回購入に踏みきったしだい。
 クラーク&バクスターの作品の例にもれず、クラークはアイデアを出すだけで、文章は1行も書いていないのだろうが、それでも胸のつかえがとれてすっきりした。

 問題の短篇は “Time Gentlemen Please” (コンマがないのは誤記ではない)。かつてパブ〈白鹿亭〉に集った面々が、50年ぶりに再会を果たす物語だ。クラークの分身チャールズ・ウィリスは、携帯電話のTV画面を通じて地球の裏側から参加している。人呼んでヴァーチャル・ゲスト・オブ・オナー。

 いっぽう生身のゲスト・オブ・オナーはベン・グレッグフォード。物理学の博士なのだが、モデルがだれかはおわかりですね。骨董品集めが趣味で、手に入れたばかりの掘り出し物(17世紀の白鑞製大ジョッキ)をホクホク顔で撫でさすっている。

 そこへ登場したのが、90代となったハリー・パーヴィス。例によって怪しげな話をはじめる。オーストラリアにいたころ、知り合いの物理学者が、自分のまわりの時間だけを早める実験に成功したというのだ。その割合は1対1万。つまり、世間で1秒たつあいだに、自分は1万秒、すなわち約3時間分の活動ができるというわけだ。もちろん、まわりは凍りついたように見えるにちがいない。

 これを聞いて、参加者のひとりが携帯電話に向かっていう――「おい、チャールズ、あんたの短篇にそういうのがなかったっけ? 美術品泥棒が時間を遅らせる話。題名はたしか――『愛に時間を』かな?」
「そいつはハインラインだ」とべつの参加者。
「じゃあ『時は乱れて』かな?」
「ディックだ!」

 こういうくすぐりがあったあと、時間を早めた結果が語られる。ウェルズの「新加速剤」でもクラークの「時間がいっぱい」でも看過されたマイナス面が明らかになり、実験者は死亡してしまうのだが、その詳細はまたの機会に。
 パーヴィスの話のあいだ、ベン・グレッグフォードが専門の物理学の立場からしきりに疑問を呈し、パーヴィスを追いつめるが、最後に逆襲される。パーヴィスによれば、その時間加速法は人間にとっては致命的でも、物品にとってはそうではない。たとえば、新品の白鑞製大ジョッキをこの加速装置にかければ、あっというまに骨董品ができあがる。どうやらこの装置が悪用されている節があるのだが……。(2011年6月23日)

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