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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.06 Wed » 『魔術と荒々しき浪漫――エピック・ファンタシーの研究』

 こんどは辛口のファンタシー論集。マイクル・ムアコックの Wizardry & Wild Romance: a study of epic fantasy (Monkey Brain, 2004) である。表題は19世紀の詩人ウェルドレイクの詩から。この詩人はムアコックのお気に入りらしく、最近の著作ではエピグラフによく引用している。

2005-11-4(Wizardry)

2005-11-4(Wizardry 2)

 
 じつはこの本は、1987年にロンドンのゴランツから出たものの増補新版。上の図版が新版、下が旧版の表紙である。新版の表紙絵は、ゲームのボックス・アートかなにかみたいで内容にあっていないが、幻の本が復活しただけで良しとしよう。

 増補新版ということで、どこが変わったかを列挙すると、チィナ・ミエヴィルの序文とジェフ・ヴァンダーミアのあとがきが付き、ムアコックが90年代に新聞に寄せた書評が8本追加されているほか、全体に記述がアップ・トゥ・デートされている。つまり、フィリップ・プルマンやJ・K・ローリングへの言及もあるわけだ。 
 もっとも、論旨そのものはまったく変わっていなくて、基本的にトールキン流エピック・ファンタシー批判であり、それを乗り越えた地平に新たなファンタシーを探ろうというものである。

 この点については、むかし『剣のなかの竜』(ハヤカワ文庫SF、1988)の解説で詳述したことがあるので興味の向きは参照されたいが(追記参照)、要するに「エピック・ファンタシーの主人公は、どいつもこいつも甘ったれたガキだ」という批判である。その証拠にムアコックは、こうしたファンタシーを「エピック・プー」と読んでいる。プーは「くまのプーさん」のプーだ。

 それはともかく、今回の新版で面白かったのは、ムアコックをキーパースンにして、エピック・ファンタシー改革の動きが起きようとしているのが見えたこと。その担い手が、この本にムアコック頌を寄せたミエヴィルとヴァンダーミアであり、ムアコックが書評で絶賛するスティーヴ・アイレット、K・J・ビショップ、ジェフリー・フォードといった面々だろう。共通点は、都市型のエピック・ファンタシーを書いていること。しばらくこの連中の作品を追いかけてみるとしよう。(2005年11月4日)

【追記】
 2007年に同文庫から出た新装版に、この解説は再録されていない。


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