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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2012.06.04 Mon » 『証拠を見ろ』

 大森望著『現代SF1500冊 回天編 1996-2005』(太田出版、2005)を落掌した。これが賞賛に値する大労作であることを認めたうえで、あえて憎まれ口をたたけば、例によって誤記や誤植が散見する。
 そのうち一覧にして著書に送ろうと思うが、いちばん大笑いした例をあげると、432ページの「レスター・スプレイグ・ディ・キャンプ」。じつはディ・キャンプの頭文字「L」は、「Lyon」 の略なのだ。こういう誤記になった理由も推測がつく。たぶんレスター・デル・レイとごっちゃになったのだろう。自分もむかしそういう勘違いをしそうになったことがあるので、余計おかしかったのだ。

 それはともかく、本書の姉妹編『現代SF1500冊 乱闘編 1975-1995』(同前)を読んでいるとき、これとよく似た本を英語で読んだような気がしてならなかったのだが、ようやく理由がわかった。ジョン・クルートのSF時評集成 Look at the Evidence: Essays & Reviews (Liverpool University Press, 1995) を読んでいたからだ(追記参照)。

2005-10-31(Look at the Evidence)

 同書は辛口で知られる批評家のジョン・クルートが、1987年から1992年にかけて書いたエッセイと書評を集大成したもの。〈インターゾーン〉連載の時評コラムを柱に、各種の媒体に発表した書評や年間回顧をまとめている(このほかにSF批評論や作家論も載っているが、分量的には一割に満たない)。
 大判ペーパーバックで450ページを超す大冊。持つとずっしりと重い。このページのすべてを活字が埋めつくし、読めども読めどもSFの書評がつづくのだ。
 もっとも、ここでいうSFはジャンルSFにとどまらず、SF的な要素をとり入れた主流文学もふくんでいる。ロバート・アーウィンの『アラビアン・ナイトメア』や、スティーヴ・エリクスンの『ルビコン・ビーチ』などが大きくとりあげられていると書けば、感じがわかってもらえるだろうか。

 このように『現代SF1500冊』とそっくりの作りのうえに、書評対象期間も『乱闘編』とほぼ重なり、俎上にあげられる作品も共通している例が多い。まるで双子のような印象を受けるのも無理からぬところだろう。

 クルートの書評はほんとうに辛口で、読者から抗議の手紙が来たほど。もっとも、その顛末をコラムに仕立てて、自分の方針を宣言しているあたりはしたたかだ。
 かいつまんでいうと、「書評はたんなる読書ガイドではない。面白い本を薦めるだけが書評の仕事ではない。辛口書評は軋轢を生むが、それでも馴れ合いよりはまし。真実は人を解放する。歯に衣を着せぬ書評も必要なのだ」となるだろう。
 ちなみに、この宣言は「毒舌の外交儀礼」と題されている。

 ところで、本書には Strokes (1988) という姉妹編がある。こちらは1966年から1986年を対象にしたエッセイと書評の集大成とのこと。ますます『現代SF1500冊』と似て見えてくる。あいにく所持していないので、早速注文するとしよう。

 さらに余談だが、本書の表紙を飾ったインク画は、ジュディス・クルートの手になるもの。オリジナルは、1995年にロンドンで個展を開いたさいに盗まれたそうである。(2005年10月31日)

【追記】
 当方が持っているのはイギリス版。親本はアメリカのサーコニア・プレスから同年に出たハードカヴァーだそうだ。

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