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SFスキャナー・ダークリー

英米のSFや怪奇幻想文学の紹介。

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2013.07.26 Fri » 『カージの探索』

 大風呂敷を広げるといえば、リン・カーターの作品のなかでその最たるものは、おそらく《キリックス星系》シリーズだろう。
 これは、一角獣座の恒星キリックスをめぐる五つの惑星にそれぞれヒーローを配し、全体として壮大な宇宙年代記を構築しようという試み。だが、じっさいは惑星ガルザンドを舞台とする長篇1作と、惑星スーラナを舞台にした中篇2作が書かれただけで終わった。じつは、カーターもシリーズ作品を書きはじめては、未完のままほったらかしておくという悪習に染まったひとりなのである。

 ともあれ、惑星ガルザンドを舞台に、英雄カージの冒険を描いたのが、長篇 The Quest of Kadji (Belmont, 1971) だ。

2011-3-17(Quest of)

 物語は、放浪の戦士団コザンガの敗走からはじまる。一族の長サロウクは、仇敵に死をあたえるため、孫であるカージを探索の旅に送りだす。少年の面影を残した若き戦士カージは、神の武器といわれるソマ・ラの斧を手に、一路東をめざす。
 途中ひょんなことから東方人の魔術師アクスーブを助け、行動をともにするようになる。やがて旅の道連れとした漂泊民の罠にはまり、重傷を負ったカージだが、狼を友とする謎の少女ザイラの看病で一命をとりとめ、東の彼方にある〈世界の果て〉で、ついに追いつめた敵を討ちとるのだった……。

 ひとことでいうと、〈剣と魔法〉の見本のような作品。とはいえ、フォーミュラ・フィクションにはフォーミュラ・フィクションのよさがあり、読後感はけっして悪くない。

 表紙絵を描いた画家の名前は記載されていないが、サインがあるのでジェフ・ジョーンズとわかる。このころは完全にフラゼッタの模倣だったんだなあ。(2011年3月17日)

2013.07.25 Thu » 『世界の果ての戦士』

 リン・カーターの小説で真っ先に名前のあがるのは、英雄ゾンガーを主人公にした《レムリアン・サーガ》だろう。これは邦訳もされたが、私見ではこれと同等、あるいはそれ以上と思われる作品が未訳になっている。それが全5巻(あるいは6巻)から成る《ゴンドウェイン》シリーズだ。

 もともとは Giant of World's End (Belmont, 1969) という単発長篇だったのだが、これが好評を博したので、作者は構想を練りなおし、5巻のシリーズに書きのばした。したがって、数え方によってシリーズが全5巻になったり全6巻になったりする。

 〈剣と魔法〉に分類される作品だが、むしろ冒険SFに近い道具立てが本シリーズの特徴。なにしろ舞台は七億年先の超未来、地球最後の大陸ゴンドウェイン。主人公はその二億年前に作られた人造人間。しかもその使命は、月の落下を阻止することなのだ。
 クラーク・アシュトン・スミスの《ゾシーク》シリーズを意識したのだろうが、大風呂敷を広げたものである。

2011-3-16(Warrior of)

 第一作 The Warrior of World's End (DAW, 1974) はこんな話だ――

 ひと組の男女がゴンドウェインの荒野を旅している。〈青い雨〉を避け、洞窟で雨宿りをするふたりの前に、ひとりの巨人が姿をあらわした。全裸で、記憶もなく、話すこともできないこの巨人は、まるで大きな赤ん坊だった。その後、この巨人はガネロンと名づけられ、夫婦の庇護のもと、ゼルミッシュの街で平和な日々を過ごす。
 が、あるとき獣人族インディゴンが襲来。ガネロンは超人的な力で街を救い、一躍英雄となる。やがて隣国の女帝が、ガネロンを臣下にしようとするが、ガネロンはこれを嫌い、〈幻術師〉とともに街を脱出。このとき〈幻術師〉の口から、ガネロンの正体が明かされる。彼は、古代文明が未来の地球を救うために遺した人造人間だったのだ。
 〈幻術師〉のもとで古代科学の驚異を学んだガネロンは、復活させた機械鳥に乗り、世界の危機に際して旅立つ。まずは地上に破滅をもたらす〈空の島〉を止めるために。
 ガネロンは 空飛ぶ島で〈空の民〉と死闘をくり広げ、みごと〈死の機械〉を停止させ、世界に平和をよみがえらせる。だが、彼にはまだ大きな任務が残っていた。〈落下する月〉を食いとめるという任務が……。

 明らかにエドガー・ライス・バローズの焼き直しだが、非常に楽しく読める。
 ちなみに表紙絵は、宇宙船の絵で有名なヴィンセント・ディフェイトが担当している。意外。(2011年3月16日)

2013.07.24 Wed » 『魔術の諸領域』

 昨日紹介した本と対になるのが Realms of Wizardry (Doubleday, 1976)だ。同時に発売されたらしく、二冊の独立したアンソロジーというよりは、大著の二分冊といった性格らしい。

2007-6-3(Realms)

 編集方針は姉妹編とほぼ同じで、大家の有名作から無名作家の珍品までとりそろえている。とはいえ、本書のほうが〈剣と魔法〉寄りで、カーターの趣味を色濃く反映している。

 収録作16篇中、長篇の抜粋が4篇。すなわちキャベル『ジャーゲン』、ハガード『洞窟の女王』、メリット『金属モンスター』、ボク『魔法使いの船』である。もっとも、キャベルの抜粋は、独立した作品として雑誌に発表された部分なので、短篇として見ることも可。
 残りのうち邦訳があるのは、ダンセイニ「ギベリン族の宝蔵」、ラヴクラフト「サルナスを襲った災厄」、ブロック「黒い蓮」、ムーア&カットナー「スターストーンを求めて」、ヴァンス「無宿者ライアン」、ムアコック「オーベック伯の夢」、ゼラズニイ「セリンデの歌」。
 このほかゲイリー・マイヤーズ、リチャード・ガーネット、ドナルド・コーリイ、ロバート・E・ハワード、クリフォード・ボールの作品が収録されている(が、邦訳したいほどの秀作はない)。

 見てのとおり非常に手堅いラインナップ。定番が多く、面白みに欠けるが、啓蒙アンソロジーだからこれでいいのだろう。
 それにしても、こういう本を編むときダンセイニの作品は重宝する。20枚以下の傑作がゴロゴロしているから、ほんとうに選り取りみどりなのだ。あらためて、その偉大さに敬服する。(2007年6月3日)

2013.07.23 Tue » 『妖術の諸王国』

 リン・カーターが編んだ空想世界ファンタシーの啓蒙アンソロジーには Kingdoms of Sorcery (Doubleday, 1976)というのがある。

2007-6-2(Kingdoms)

 だが、この本は意外に世に知られていない。というのも、ローカスの短篇集・アンソロジー・リストから、どういうわけか漏れているからだ。世に出まわっているカーターの著作リストは、このリストを基にしたものが多いので、当然ながら記載されていないのである。
 当方は本書の姉妹篇を手に入れたとき存在を知り、あわてて注文したのだった。

 本書はカーターが編んだ一連の啓蒙アンソロジーとしては初のハードカヴァー。そういうわけでなかなか気合いがはいっており、大家の有名作から同人誌レヴェルの珍品までとりそろえている。主要な短篇はすでに使ってしまったという事情もあるのだろうが、類書には見られないユニークな目次になっているのはたしか。

 だが、その編集方針が裏目に出た感がある。というのも、収録作19篇中7篇が長篇の抜粋。6篇が10枚以下の掌編なのだ。
 おそらく本書は見本市であって、興味があったら同じ作者の単行本に手をのばしてくれということなのだろう。だが、アンソロジーとして見れば、首をかしげざるを得ない。長篇の一部抜粋で、その作品の真価が伝わるとは思えないし、散文詩のような掌編は、物語を愛好する読者を敬遠させるだけだからだ。

 ちなみに、抜粋が載っている長篇はベックフォード『ヴァテック』、エディスン Misteress of Misteresses、プラット The Well of the Unicorn、 ホワイト「石にさした剣」(ただし、邦訳版からは削除された部分)、ルイス『ライオンと魔女』、トールキン『旅の仲間』、アダムズ『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』。
 邦訳がある作品はライバー「ランクマー最高の二人の盗賊」、ポオ「影」、「沈黙」、C・A・スミス「悲しみの星」、「記憶の淵より」。
 このほかヴォルテール、マクドナルド、モリス、ロバート・H・バーロウ、ディ・キャンプの短篇と、スミスの散文詩がさらに1篇載っている。姉妹編とくらべると、民話/寓話色の濃い作品を集めたものといえる。(2007年6月2日)

2013.07.22 Mon » 『古きに代わる新しき世界』

 リン・カーターの空想世界啓蒙アンソロジー第二弾が、New Worlds for Old (Ballantine, 1971) だ。

2006-10-3 (New)

 変わった表題だが、これにはつぎのような意味がある。
 むかしから人間は、「ここではないどこか」を空想してきた。かつてその空想の地は、地球上のどこかにあるとされていた。だが、時代が下るにつれ、地球上にそのような土地が存在しないことが明らかになり、ちがう種類の別世界を空想せざる得なくなった。それが「古きに代わる新しき世界」である。

 というわけで、その「古き世界」をテーマにしたのが、本書の姉妹編 Golden Cities, Far (Ballantine, 1970) で、こちらは神話・伝説の再話やそれを題材にした創作を集めている。それに対して本書は、個人が空想した別世界を舞台にしたファンタシーを集めている。

 さすがに第二弾だけあって、作家の選択にちょっとヒネリが見られる。例によって作家名を列挙する。

 ウィリアム・ベックフォード(C・A・スミス訳)、エドガー・アラン・ポオ、ジョージ・マクドナルド、オスカー・ワイルド(詩)、ロード・ダンセイニ、H・P・ラヴクラフト、ゲイリー・マイヤーズ、リン・カーター、ジョージ・スターリング(詩)、ロバート・E・ハワード、C・L・ムーア、クリフォード・ボール、クラーク・アシュトン・スミス(詩)、マーヴィン・ピーク。

 そろそろ珍しい作品が底をついたのか、いろいろと苦しい選択。 たとえば、ピークの作品が収録されていると聞くと色めきたつ向きもあるだろうが、じっさいは『タイタス・アローン』から削られた章が載っているだけ。羊頭狗肉の感が強い。
 それでも、スターリングとスミスの師弟をそろい踏みさせるなど、知恵を絞ったあとは見える。

 ちなみにクリフォード・ボールというのは、コナン・フォロワー第一号ということで、古手の〈剣と魔法〉ファンには有名な作家だが、訳されていないのには理由がある。発表された三篇、すべて箸にも棒にもかからない駄作なのだ。いくら珍しいからといって、駄作を収録するのはやはり良くない。肝に銘じておこう。(2006年10月3日)